北関東の中小企業が経営者と人事の「対話」を始めるための第一歩
経営参画・数字

北関東の中小企業が経営者と人事の「対話」を始めるための第一歩

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

北関東の中小企業が経営者と人事の「対話」を始めるための第一歩

「社長、人事のことで相談があるのですが」——この一言を、北関東の中小企業の人事担当者が経営者に切り出すのは、想像以上にハードルが高いことです。

多くの中小企業では、経営者と人事担当者の間に、目に見えない壁があります。経営者は「人事は管理部門の仕事だろう」と考え、人事担当者は「経営のことは社長が決めること」と思っている。人事の話は経営会議の議題に上がらず、人材に関する課題は個別の対処で済まされる。そして気づいた時には、採用難、離職、組織の停滞といった問題が、取り返しのつかないレベルにまで進行している。

私がこれまで500社以上の企業を支援してきた中で、最も根深い問題だと感じているのが、この「経営者と人事の対話の不在」です。戦略もなく、制度もなく、数字もない——しかし、何よりも欠けているのは、経営者と人事が同じテーブルにつき、事業と人材について語り合う「対話」そのものです。

北関東の中小企業が抱える人事課題——採用難、若手の離職、人材の東京流出、技術継承の遅れ——これらのすべてに共通する根本原因は、経営者と人事の対話が足りていないことにあると、私は考えています。今回は、その対話を始めるための具体的な第一歩について考えていきます。


なぜ経営者と人事は「対話」できないのか

まず、なぜ多くの中小企業で経営者と人事の対話が成立しないのかを理解する必要があります。

構造的な問題:「人事担当者」がいない。

北関東の中小企業、特に従業員100人以下の企業では、「人事専任者」がいないことが珍しくありません。総務の担当者が給与計算と社会保険の手続きをしているだけで、「人事戦略」を考える人が組織の中に存在しない。

これでは、そもそも「対話の相手」がいません。経営者が人事のことを一人で抱え込むか、誰も考えないまま放置されるか——どちらかになってしまいます。

群馬のある製造業の経営者は、「人事のことは全部自分で決めている。相談できる相手がいない」と嘆いていました。従業員70人の会社で、採用から評価、昇給、退職対応まで、すべてを経営者一人が判断している。それは、人事の問題ではなく、経営の孤独の問題です。

認識の問題:人事は「守り」の仕事だという思い込み。

多くの経営者にとって、人事は「守りの仕事」です。給与を計算する、社会保険の手続きをする、労務トラブルに対応する——どれも「やらなければならない事務作業」であって、事業を前に進める「攻め」の仕事ではない。

この認識が変わらない限り、経営者は人事を戦略的なパートナーとは見なしません。「人事と話す時間があるなら、営業の数字を見たほうがいい」——こう考えている経営者は、北関東に限らず、全国に数多くいます。

言語の問題:経営者と人事の「言葉」が違う。

経営者は「売上」「利益」「シェア」「成長率」という言葉で思考しています。一方、人事担当者は「離職率」「従業員満足度」「研修実施回数」「有給取得率」という言葉で語ります。

この「言語」のズレが、対話を阻んでいます。人事担当者が「離職率が高いんです」と報告しても、経営者には「で、それが事業にどう影響するの?」が見えない。経営者が「人が足りない」と言っても、人事担当者には「何人、どんなスキルの人が、いつまでに必要なのか」が見えない。

お互いの言葉を翻訳する作業が、対話の第一歩です。


対話の第一歩:「数字」で共通言語を作る

経営者と人事の対話を始めるために、最も効果的な方法は「数字」で語ることです。経営者は数字に反応します。数字があれば、人事の課題を「経営の課題」として認識してもらえます。

まず3つの数字を計算する。

難しい分析は必要ありません。まず、以下の3つの数字を出すことから始めましょう。

数字1:採用充足率。

「今年、何人必要で、何人採用できたか」。必要人数5人に対して3人しか採用できなかったなら、充足率は60%。この数字は、人員不足が事業に与えている影響を測る起点になります。

数字2:離職率。

「今年、何人が辞めたか」。在籍者50人で5人が辞めたなら、離職率は10%。この数字を業界平均と比較すれば、自社の定着力の水準が見えます。特に入社3年以内の離職率は、採用と育成の質を反映する重要な指標です。

数字3:一人当たり売上高。

「売上高÷社員数」。この数字が前年比で上がっているか下がっているかは、組織の生産性の変化を示します。人が増えても一人当たり売上高が下がっているなら、「人は増えたが、効率が落ちている」可能性がある。人が減っても一人当たり売上高が維持されているなら、「少数精鋭で回せている」ということです。

この3つの数字を、A4用紙1枚にまとめて経営者に見せる。それだけで、対話のきっかけが生まれます。

宇都宮市のある卸売会社では、人事担当者がこの「A4一枚レポート」を作って社長に提出しました。社長の反応は、「え、離職率ってこんなに高いの?」でした。それまで個別の退職には対応していましたが、「率」として把握したことがなかった。その一枚のレポートが、社長と人事担当者の月次ミーティングを始めるきっかけになりました。


対話の第二歩:「事業計画」と「人員計画」をつなげる

3つの数字で対話のきっかけを作ったら、次のステップは「事業計画と人員計画を連動させる」ことです。

「来年の売上目標を達成するために、何人必要か」を一緒に考える。

多くの中小企業では、事業計画は経営者が作り、人事は「計画を達成するために必要な人を何とかして集める」役割です。しかし、事業計画の策定段階から人事が関わることで、「この計画を達成するために、どんな人材がいつまでに何人必要か」を計画に組み込むことができます。

たとえば、「来期の売上目標が今期比120%」であれば、現在の一人当たり売上高をベースに、必要な増員数を算出する。営業部門に2人、製造部門に3人、管理部門に1人——こうした具体的な数字を事業計画に落とし込むことで、採用活動の優先順位とスケジュールが明確になります。

群馬のある部品メーカーでは、年度初めの経営計画策定ミーティングに、初めて人事担当者を参加させました。「来期の新規受注目標を達成するために、生産技術者が2名必要です。しかし、この職種の採用には平均6ヶ月かかるので、上期中に採用活動を始めなければなりません」——人事担当者がこう発言したことで、経営計画に「採用のタイムライン」が初めて組み込まれました。

「人材のボトルネック」を経営課題として共有する。

事業成長を阻んでいるのは、設備でも資金でもなく、「人材」であることが多い。しかし、その「人材のボトルネック」が経営会議で議論されることは少ない。

「営業部長が退職した場合、後任はいるか」「製造ラインの技術を継承できる若手は何人いるか」「経理担当者が長期離脱した場合、誰がカバーするか」——こうした「人材リスク」を経営者と共有し、対策を一緒に考えることが、人事の戦略的な価値です。


対話の第三歩:「月次の人事ミーティング」を定着させる

単発の対話では、組織は変わりません。対話を「仕組み」にすることが、持続的な改善の鍵です。

月に一度、30分の「人事ミーティング」を設定する。

経営者と人事担当者(あるいは人事機能を担っている管理職)が、月に一度、30分間だけ人事に関する話をする場を設ける。カレンダーに固定の予定として入れ、特別な事情がない限りキャンセルしない。

アジェンダは固定でいい。

  • 今月の人員状況:採用の進捗、退職者の有無、休職者の状況
  • 組織の課題:現場から上がっている人に関する課題(モチベーション低下、チーム内の問題、スキル不足など)
  • 次月のアクション:採用活動の予定、研修の計画、評価面談のスケジュール

栃木のある建設会社では、毎月第一月曜日の朝8:30から9:00を「人事ミーティング」の時間として固定しています。社長と総務部長の二人だけの30分間。最初は「話すことがあるかな」と心配していた総務部長ですが、始めてみると「30分では足りない」ことがほとんどだと言います。「普段の業務の中では話せない、組織の構造的な課題について話す場」として機能しています。

ミーティングの記録を残す。

対話の内容と、決まったアクションを簡単にメモで残す。これにより、「言ったのに対応されない」「前回何を話したか覚えていない」という事態を防げます。A4用紙半分程度の簡単な議事メモでいい。


経営者に「人事の言葉」を翻訳する技術

人事担当者が経営者と対話するためには、「人事の言葉」を「経営の言葉」に翻訳するスキルが必要です。

「離職率が高い」→「年間○万円の損失が発生している」。

離職率という数字だけでは、経営者には響きません。しかし、「離職一人あたりの採用・教育コストが○万円で、年間○人が辞めているから、合計○万円の損失」と言えば、経営者の目の色が変わります。

「研修をやりたい」→「生産性を○%向上させるための投資」。

研修の提案も、「社員のスキルアップのため」ではなく、「研修により○○のスキルが向上すれば、一人当たりの生産量が○%増え、年間○万円の増収が見込める」と言えば、経営者は「投資」として判断できます。

「人事制度を整えたい」→「離職防止と採用力強化で○万円の効果」。

人事制度の導入も、コストとして見れば躊躇する経営者は多い。しかし、「制度が整うことで離職が年間○人減り、採用コストが○万円削減される」と示せば、投資対効果として検討してもらえます。

この「翻訳」の技術は、一朝一夕には身につきません。しかし、経営数字に関心を持ち、自社の売上や利益、主要な財務指標を理解することから始めることはできます。


「対話の文化」が組織を変える

経営者と人事の対話は、それ自体が目的ではありません。この対話が組織全体の「対話の文化」を醸成する起点になることが、本当の価値です。

経営者と人事が対話すれば、その内容は管理職に伝わる。管理職が現場と対話すれば、社員の声が経営に届く。この「情報の循環」が、組織の意思決定の質を高め、社員のモチベーションを向上させ、事業の成長を支えます。

北関東の中小企業は、規模が小さいからこそ、経営者と社員の距離が近い。この「近さ」は、本来なら大きなアドバンテージです。しかし、近いからこそ「わかっているつもり」になり、対話を省略してしまう。この落とし穴を避けるために、対話を「仕組み」にする必要があるのです。


第一歩は「今月中に」踏み出す

最後に、具体的なアクションプランを提案します。

今週やること:3つの数字を計算する。

採用充足率、離職率、一人当たり売上高。この3つの数字を出す。手元のデータで計算できるはずです。

今月やること:経営者にA4一枚レポートを提出する。

3つの数字と、それぞれの数字が事業に与えている影響を、A4用紙1枚にまとめて経営者に渡す。「5分だけお時間ください」と言って。

来月やること:月次ミーティングを提案する。

A4一枚レポートへの反応を見て、「月に一度、30分だけ人事の話をする時間をいただけませんか」と提案する。

この3ステップは、大きな予算も特別な権限も必要ありません。必要なのは、「一歩を踏み出す勇気」だけです。

人事は、事業を支える最も重要な経営機能のひとつです。しかし、その重要性は、対話を通じて初めて経営者に伝わります。北関東の中小企業の人事担当者が、経営者との対話の第一歩を踏み出すこと。その一歩が、組織を変え、事業を変え、やがては地域の産業を変えていく起点になると、私は信じています。

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