
北関東の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤
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北関東の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤
この記事は、北関東の企業の人事をテーマにしたシリーズの100本目にあたります。これまで、採用、評価、報酬、人材育成、組織開発、労務管理——さまざまなテーマについて考えてきました。最終回となる今回は、「これからの人事」について、北関東の中小企業の視点から展望します。
私がこのシリーズを通じて一貫して伝えたかったことがあります。それは、「人事は事業のためにある」ということです。人事制度を整えること自体が目的ではなく、事業を成長させるために人事の力を使う。社員を大切にすることは大前提として、その先に「事業の成長にどう貢献するか」という視点を持つ。この考え方が、これからの人事の基盤だと考えています。
北関東の中小企業を取り巻く環境は、大きく変化しています。少子高齢化による労働力人口の減少、東京圏への人材流出、テクノロジーの進化、働き方の多様化、グローバル化——これらの変化は、従来の人事のあり方に根本的な見直しを迫っています。
今回は、北関東の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤として、5つの方向性を提示します。
方向性1:「管理する人事」から「価値を創る人事」へ
多くの中小企業において、人事の仕事は「管理業務」が中心です。給与計算、勤怠管理、社会保険の手続き、就業規則の管理——これらは確かに重要な業務ですが、それだけでは人事の価値は限定的です。
これからの人事は、「管理する」だけでなく、「価値を創る」ことが求められます。
価値を創る人事とは何か。それは、事業の成長に直結する人材の確保と育成、組織の能力を最大化する仕組みづくり、経営戦略の実行を人材面から支えること——こうした活動です。
たとえば、「今期の事業目標を達成するために、どのポジションにどのような人材が必要か」を経営者と議論し、採用計画を策定する。「3年後の事業ビジョンを実現するために、今から育てるべき人材は誰か」を分析し、育成計画を実行する。「社員のエンゲージメントが低下している原因を特定し、組織的な対策を講じる」——これらが、価値を創る人事の仕事です。
管理業務をなくすことはできません。しかし、管理業務の効率化やBPOの活用によって管理業務の負荷を減らし、空いた時間を価値創造に充てる。この転換が、これからの人事には必要です。
高崎市のある製造業(従業員約120名)の人事担当者は、この転換を実践しています。「3年前まで、私の仕事の8割は管理業務だった。給与計算をBPOに出し、勤怠管理をシステム化し、管理業務の割合を4割まで下げた。残りの時間を、採用戦略の立案と管理職の育成に使っている。経営者からは『人事がこんなに頼りになるとは思わなかった』と言われるようになった」と話します。
方向性2:「経験と勘」から「データに基づく人事」へ
これまでの中小企業の人事は、経営者の経験と勘に大きく依存してきました。「あの社員は伸びるだろう」「この配置が良いだろう」——経営者の直感的な判断が、人事の意思決定の中心でした。
経験と勘は、確かに貴重な判断材料です。しかし、経験と勘だけに頼る人事には、限界があります。バイアスが入りやすい。再現性がない。他者に伝えにくい。そして、経営者が代わると判断の質が変わる。
これからの人事は、データを活用した意思決定を取り入れていく必要があります。
データに基づく人事とは、高度なAIやビッグデータ分析を意味するわけではありません。中小企業レベルで活用できるデータは、すでに多くあります。
離職率と離職理由のデータ。採用チャネルごとの応募数・内定率・定着率。一人当たり売上高と一人当たり人件費の推移。評価結果の分布と推移。研修受講後のスキル変化。従業員満足度調査の結果。
これらのデータを定期的に収集・分析し、「事実に基づいた判断」を行う。たとえば、「このチャネルからの採用者は定着率が高い」というデータがあれば、そのチャネルに採用予算を集中させる判断ができます。「この部門の離職率が高い」というデータがあれば、その原因を調査し、対策を講じることができます。
データは、経験と勘を否定するものではなく、それを補完するものです。経営者の直感にデータの裏付けが加わることで、人事の意思決定の質が向上します。
方向性3:「画一的な人事」から「個別最適の人事」へ
従来の人事は、全社員に同じ制度、同じルール、同じ研修を適用する「画一的」なアプローチが主流でした。しかし、社員一人ひとりの能力、経験、キャリア志向、ライフステージは異なります。画一的なアプローチでは、一人ひとりの力を最大限に引き出すことは難しい。
これからの人事は、社員一人ひとりに合わせた「個別最適」のアプローチを取り入れていく必要があります。
個別最適とは、全員バラバラの制度をつくるということではありません。基本的な制度は共通としつつ、その運用において個別の状況を考慮するということです。
たとえば、育成について。全社員一律の研修だけでなく、個人の強みと課題に合わせた育成計画を策定する。Aさんには技術研修、Bさんにはマネジメント研修、Cさんには外部のセミナー参加——一人ひとりに合った成長の機会を提供する。
たとえば、働き方について。全社員一律の勤務時間ではなく、業務内容やライフステージに応じた柔軟な働き方を認める。育児中の社員には時短勤務、介護をしている社員には在宅勤務——個別の事情に配慮した働き方の選択肢を提供する。
中小企業は、大企業よりも個別最適の人事を実践しやすい環境にあります。社員数が少ない分、一人ひとりの状況を把握しやすく、柔軟な対応が可能です。
方向性4:「人事部門だけの人事」から「全社で取り組む人事」へ
「人事のことは人事部門が考える」——この発想を転換する必要があります。
人事は、人事部門だけの仕事ではありません。経営者、管理職、そして社員一人ひとりが、人事の当事者です。
経営者は、人事戦略を事業戦略と連動させる役割を担います。「どのような人材を確保し、育成し、活用するか」は、経営の根幹に関わるテーマであり、経営者自身が考え、判断し、行動すべきことです。
管理職は、日々のマネジメントを通じて、部下の育成、評価、モチベーション向上を実践する役割を担います。管理職こそが「現場の人事」です。
社員一人ひとりは、自分のキャリアと成長に対して主体的に取り組む役割を担います。会社に「育ててもらう」のではなく、自分で「成長する」意識を持つ。
人事部門の役割は、これらの当事者が適切に機能するための「仕組みと支援」を提供することです。制度を設計し、情報を提供し、研修を企画し、相談に応じる。人事部門は、全社の人事活動を支える「プラットフォーム」としての役割を担うべきです。
宇都宮市のあるサービス業(従業員約70名)の人事担当者は、「私の仕事は、管理職が人事の仕事をしやすい環境をつくること」と表現しています。「管理職が部下と面談するためのツール、評価をつけるためのガイド、育成計画を立てるためのテンプレート——こうした『武器』を管理職に提供し、管理職が現場の人事を実践する。私はその黒子に徹する」。
方向性5:「地域の力」を活かした人事へ
北関東の中小企業にとって、「地域」は人事の大きな資産です。
地域の教育機関との連携による人材確保。地元の高校や大学との関係を深め、インターンシップの受け入れ、企業説明会への参加、共同研究の実施などを通じて、地元の若者に自社を知ってもらう。
地域の企業間のネットワーク。同じ地域の中小企業同士が、人事の課題や成功事例を共有する。研修の共同開催、合同企業説明会の実施、人事担当者の勉強会——地域のネットワークを活かした取り組みが、個社だけでは実現できない成果を生みます。
地域の生活環境を採用の武器にする。通勤時間の短さ、住宅費の安さ、自然環境の豊かさ、子育て環境の充実——北関東の生活環境は、東京圏と比較して多くのメリットがあります。これらを採用メッセージとして発信することで、Uターン・Iターンの人材を惹きつけることができます。
地域に根ざした企業としてのアイデンティティ。「この地域で、この事業を、この仲間と」——地域に根ざした企業の存在意義は、社員のエンゲージメントを高める力を持っています。グローバル企業にはない、地域密着企業ならではの魅力を、人事の力で社内外に発信する。
これからの人事に必要な「3つの力」
最後に、これからの北関東の中小企業の人事に必要な3つの力を示します。
力1:経営を理解する力。
事業の全体像を把握し、経営数字を読み、経営戦略と人材戦略を結びつける力。人事の仕事を「人事の世界」の中だけで考えるのではなく、「事業の世界」の文脈で考える力です。
力2:人と組織を見る力。
社員一人ひとりの能力、意欲、適性を見極め、組織全体のダイナミクスを理解する力。データと対話の両方を活用して、人と組織の実態を正確に把握する力です。
力3:変化を推進する力。
「これまでのやり方」に安住せず、必要な変化を構想し、推進する力。組織の中の抵抗を乗り越え、小さな変化を積み重ねて、組織を進化させる力です。
この3つの力は、一朝一夕に身につくものではありません。日々の業務の中で意識し、学び、実践し、振り返る——その積み重ねが、人事の力を高めていきます。
北関東の中小企業の人事担当者の皆さんに、この100本の記事を通じて伝えたかったことは、「あなたの仕事には大きな価値がある」ということです。人事の仕事は、目立たないかもしれません。成果がすぐに見えにくいかもしれません。「人事がいてよかった」と言われる機会は少ないかもしれません。
しかし、人事の仕事は、組織のすべての活動の基盤を支えています。適切な人材を採用し、育て、配置し、評価し、報い、組織を活性化する。この仕事がなければ、企業は成長できません。
北関東の中小企業が、それぞれの地域で、それぞれの事業を通じて、社会に価値を提供し続ける。そのために、人事の力を最大限に活かす。この記事が、そのための一助となれば、これ以上の喜びはありません。
これからも、北関東の企業の人事が進化し続けることを、心から願っています。
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