
北関東の企業が人事データ活用を始めるための第一歩
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北関東の企業が人事データ活用を始めるための第一歩
「人事データの活用って、AIとか高度なシステムが必要なんでしょ?うちにはそんな余裕はないよ」——北関東の中小企業の経営者や人事担当者から、この反応が返ってくることが多い。「ピープルアナリティクス」「HRテック」「データドリブン人事」——こうした言葉が飛び交う中で、「自分たちには関係のない話だ」と感じてしまうのは無理もありません。
しかし、人事データの活用は、高度なシステムがなくても始められます。むしろ、北関東の中小企業が最初に取り組むべきなのは、手元にある「基礎的なデータ」を整理し、「数字で人事を語る」習慣を作ることです。Excel一枚あれば十分に始められます。
私がこれまで支援してきた企業の中で、人事データの活用に成功しているところに共通するのは、「高度な分析」ではなく、「基礎的なデータを継続的に追跡し、経営判断に活かしている」という姿勢です。今回は、北関東の企業が人事データ活用を始めるための、具体的な第一歩について考えます。
なぜ人事データの活用が必要なのか
そもそも、なぜ「データ」が必要なのか。それは、「感覚」や「印象」だけでは、正しい判断ができないからです。
「感覚」と「データ」のギャップ。
ある企業で、経営者に「うちの離職率はどのくらいだと思いますか?」と聞いたところ、「5%くらいじゃないか」という回答でした。実際に計算してみると、離職率は15%でした。経営者の感覚と実態に、10ポイントもの差があったのです。
なぜこうしたギャップが生じるのか。人間は、直近の出来事や印象的な出来事に引きずられる傾向があります。「最近は辞めた人がいない」と思っていても、年間を通して見れば相当数が辞めている。この「認知のバイアス」を正すのが、データの役割です。
経営者との対話の「共通言語」。
経営者は「数字」で考え、「数字」で判断します。人事担当者が「最近、職場の雰囲気が悪くなっている気がする」と報告しても、経営者には響きにくい。しかし、「従業員エンゲージメントのスコアが、半年前と比べて15%低下しています。特に○○部門が顕著です」と言えば、経営者は「何が起きているのか」に関心を持ちます。
データは、人事と経営の「共通言語」です。
まずは「5つの基礎データ」を整備する
人事データ活用の第一歩は、難しいことではありません。以下の5つの基礎データを、定期的に算出・追跡することから始めましょう。
データ1:離職率。
期間中に退職した人数÷期初の在籍人数×100。月次、四半期、年次で追跡します。全社の数字だけでなく、部門別、入社年次別(特に入社3年以内)、雇用形態別(正社員・パート)で計算することで、「どこで、誰が辞めているか」が見えてきます。
データ2:採用充足率。
採用計画で必要とした人数に対して、実際に採用できた人数の割合。「今年は5人必要だったが、3人しか採れなかった。充足率は60%」——この数字は、人材確保の状況を端的に示します。チャネル別(求人媒体、紹介、リファラルなど)に計算すれば、どのチャネルが有効かも見えます。
データ3:一人当たり売上高(労働生産性)。
売上高÷従業員数(またはフルタイム換算の総労働時間)。組織全体の生産性の推移を把握するための基本指標です。人を増やしても一人当たり売上高が下がっていれば、「人は増えたが生産性は落ちている」可能性があります。
データ4:残業時間。
部門別、個人別の月間残業時間。長時間労働は、メンタルヘルスのリスク、離職のリスク、生産性低下のリスクに直結します。特定の部門や個人に残業が集中していないかを可視化することが重要です。
データ5:有給取得率。
付与された有給休暇のうち、実際に取得された割合。有給取得率が低い部門は、業務過多、管理職の意識、職場の雰囲気などに課題がある可能性があります。
この5つのデータは、給与システム、勤怠管理システム、あるいはExcelの人事台帳から抽出できる情報ばかりです。特別なツールは必要ありません。
データの「見方」を身につける
データを集めるだけでは意味がありません。データを「読み解く」力が必要です。
比較の視点。
データは、「単体」ではなく「比較」で見ることで意味が生まれます。
- 前年比較:「昨年の離職率は10%、今年は12%。2ポイント上がっている。何があったのか?」
- 部門比較:「A部門の離職率は5%、B部門は20%。なぜこんなに差があるのか?」
- 業界比較:「うちの離職率は15%だが、同業の平均は10%。うちは高い。なぜか?」
トレンドの視点。
一時点のデータだけでなく、時系列でのトレンドを追うことが重要です。「離職率が3年連続で上昇している」という事実は、「今年の離職率が15%」という事実よりも、はるかに深刻なシグナルです。
相関の視点。
複数のデータを並べて見ることで、因果関係のヒントが見えてきます。「残業時間が多い部門ほど離職率が高い」「研修参加者の離職率は非参加者より低い」——こうした相関は、対策を考える際の重要な手がかりになります。
ただし、注意が必要なのは、「相関」は「因果」ではないということです。「残業が多いから辞める」のか、「辞める人が出て残った人の残業が増える」のか——データだけでは判断できない場合があります。データはあくまで「問いを立てるためのツール」であり、最終的な判断には現場の声や定性的な情報が不可欠です。
「人事ダッシュボード」を作る
5つの基礎データを一覧できる「人事ダッシュボード」を作ることを推奨します。
大がかりなものは不要です。Excelで十分です。A4用紙1枚に、5つの指標の現在値と前期比を並べたもの。これを月次で更新し、経営者に報告する。
前橋市のある製造業では、人事担当者がExcelで「人事ダッシュボード」を作成し、毎月第一営業日に社長に提出しています。A4用紙1枚に、離職率、採用充足率、一人当たり売上高、残業時間、有給取得率の5つの指標が前月比・前年同月比とともに表示されています。
社長は「このダッシュボードを見るようになって、人事の状態が一目でわかるようになった。数字が赤くなったら、すぐに人事と話をするようにしている」と言います。この「A4一枚レポート」が、経営者と人事の定期的な対話のきっかけを作っています。
「退職理由」のデータ化
5つの基礎データに加えて、特に重要なのが「退職理由」のデータ化です。
退職面談の実施と記録。
退職する社員に対して、退職面談を実施し、退職理由を聞き取ります。「なぜ辞めるのか」を本音で話してもらうのは難しいことですが、「今後の組織改善のために教えてほしい」という姿勢で臨めば、多くの退職者は率直に語ってくれます。
退職理由を「給与・待遇」「人間関係」「仕事内容」「キャリアの見通し」「労働時間」「会社の方針」「家庭の事情」「転職」などのカテゴリに分類し、蓄積していきます。
退職理由の傾向分析。
退職理由を1年分蓄積すると、パターンが見えてきます。「うちの会社は、人間関係が原因で辞める人が最も多い」「入社2年目で仕事内容への不満を理由に辞める人が集中している」——こうした傾向が見えれば、対策の優先順位が明確になります。
宇都宮市のある食品メーカーでは、過去3年分の退職面談のデータを分析した結果、「入社1年以内の退職者の70%が、入社前のイメージと実際の仕事内容のギャップを退職理由に挙げている」ことが判明しました。この発見を受けて、採用段階での仕事内容の説明を大幅に見直し、入社前のインターンシップを導入した結果、1年以内の離職率が半減しました。
データ活用の「次のステップ」
基礎データの整備と追跡ができるようになったら、次のステップに進むことができます。
ステップ2:従業員サーベイの実施。
年に1回から2回、全社員を対象としたアンケート調査を実施します。「仕事への満足度」「職場環境への評価」「上司への信頼度」「成長機会への満足度」——こうした定性的な情報を定量化することで、「見えにくい問題」を可視化できます。
サーベイツールは、無料のGoogleフォームから始めることができます。質問項目は10問程度に絞り、5分以内で回答できるようにすることで、回答率を高めます。
ステップ3:採用チャネル別の定着率分析。
「求人媒体経由の採用者」「リファラル経由の採用者」「ハローワーク経由の採用者」——チャネル別に入社後の定着率を追跡することで、「どのチャネルからの採用が最も定着しているか」がわかります。定着率の高いチャネルに投資を集中することで、採用効率を高めることができます。
ステップ4:研修効果の測定。
研修に参加した社員とそうでない社員の間で、生産性やスキルに差があるかを比較する。研修への投資が、どの程度の効果を生んでいるかをデータで把握し、研修プログラムの改善に活かします。
データ活用の「壁」を乗り越える
人事データ活用を始める際に、よくぶつかる壁とその乗り越え方を整理します。
壁1:「データを集める手間がかかる」。
最初から完璧なデータベースを作ろうとすると、手間がかかりすぎて挫折します。まずは、既存のシステムから取得できるデータだけで始めること。勤怠システムからは残業時間と有給取得率、給与システムからは人員数と退職者数が取れます。新しいシステムを導入しなくても、今あるデータから始められます。
壁2:「データを見ても、何をすればいいかわからない」。
データは「問いを立てるためのツール」です。データを見て「なぜ?」という問いが浮かんだら、現場にヒアリングに行く。データと現場の声を組み合わせることで、対策のヒントが見えてきます。
壁3:「経営者がデータに関心を持ってくれない」。
経営者の関心を引くためには、「人事の数字」を「経営の数字」に翻訳する必要があります。「離職率が15%です」ではなく、「離職率15%による年間損失は約○万円です」と伝える。「残業が多い部門があります」ではなく、「残業代の年間総額は○万円で、業務改善により○万円削減できる可能性があります」と伝える。経営者が反応する「言語」で語ることが重要です。
データは「人を見るため」のツール
最後に、大切なことをお伝えします。人事データ活用の目的は、「データで人を管理する」ことではありません。「データを通じて、人をよりよく理解し、人が活躍できる環境を作る」ことです。
データは万能ではありません。数字に表れない感情、人間関係、個別の事情——こうした定性的な要素は、データだけでは捉えられません。データはあくまで「補助ツール」であり、最終的な判断には人間の洞察力が不可欠です。
しかし、データがあることで、「感覚」に頼っていた判断が「根拠」に基づく判断に変わります。「なんとなく人が辞めている気がする」が「○○部門で、入社2年目の社員が、人間関係を理由に辞めるケースが集中している」に変わる。この解像度の違いが、対策の精度を上げ、経営の質を高めます。
北関東の中小企業が人事データ活用を始めること。それは、高度なテクノロジーの導入ではなく、「数字で人事を語り、数字で経営と対話する」文化を作ることです。Excel一枚から始められるこの取り組みが、組織の人事を変え、事業の成長を支える力になると、私は信じています。
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