北関東の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法
経営参画・数字

北関東の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法

#エンゲージメント#評価#研修#組織開発#経営参画

北関東の中小企業が「働きがい」と「働きやすさ」を両立させる方法

「有給も取れるし、残業も少ない。でも、やりがいがないから辞めます」——この言葉は、ある栃木県の中小企業を辞めた若手社員が残したものです。その企業は、働き方改革に積極的に取り組み、労働時間の削減と有給取得率の向上を実現していました。数字の上では「働きやすい会社」でした。しかし、それでも若手は辞めていった。

一方で、別の企業ではこんな話もあります。「うちは忙しいし、正直きつい時もある。でも、自分の仕事が会社の成長につながっている実感があるから、辞めたいとは思わない」——群馬のある製造業の中堅社員の言葉です。

この二つの事例が示しているのは、「働きやすさ」だけでは人は定着しないということ。そして、「働きがい」だけでも長続きしないということです。社員が長く、前向きに働き続けるためには、「働きやすさ」と「働きがい」の両方が必要です。この両立が、北関東の中小企業にとって最も重要な人事テーマのひとつだと、私は考えています。


「働きやすさ」と「働きがい」は何が違うのか

まず、この二つの概念を明確に区別しましょう。

「働きやすさ」とは。

労働時間が適正であること。休日が確保されていること。給与が公正であること。職場環境が快適であること。ハラスメントがないこと。福利厚生が整っていること。——つまり、「安心して、無理なく働ける条件」が整っている状態です。

心理学の用語を借りれば、これは「衛生要因」に近い概念です。衛生要因とは、「不足すると不満を感じるが、充足しても積極的な満足にはつながらない要因」です。残業が多ければ不満を感じますが、残業がなくなっただけで「この仕事が楽しい」とは感じません。

「働きがい」とは。

自分の仕事に意味を感じること。成長を実感できること。組織に貢献している実感があること。自分の意見や工夫が受け入れられること。挑戦できること。認められること。——つまり、「この仕事を通じて、自分の存在価値を感じられる」状態です。

これは「動機付け要因」に相当します。動機付け要因は、「存在すると積極的な満足を生む要因」です。仕事にやりがいを感じれば、多少の困難があっても前向きに取り組むことができます。

両方が必要な理由。

「働きやすさ」だけを追求すると、「楽だけど退屈」な職場になる。「働きがい」だけを追求すると、「やりがいはあるが心身が持たない」職場になる。どちらかが欠けると、社員は離職します。両方がバランスよく存在して初めて、社員が「この会社で長く働きたい」と感じる職場が生まれます。


北関東の中小企業が陥りやすい「片輪走行」

北関東の中小企業には、「働きやすさ」か「働きがい」のどちらかに偏っているケースが多く見られます。

パターン1:「働きやすさ重視」型。

働き方改革の流れに乗り、残業削減、有給促進、福利厚生の充実に力を入れた企業。しかし、仕事の中身が変わっていないため、「楽にはなったが、面白くはない」という状態に陥る。特に若手から「成長できない」「刺激がない」という不満が出やすい。

パターン2:「働きがい重視」型。

「やりがいのある仕事を任せる」「挑戦を推奨する」という文化がある企業。しかし、労働時間が長く、休日が少なく、「やりがい搾取」の状態になっている。やりがいに頼って働き方の改善を後回しにした結果、燃え尽き症候群やメンタル不調を招く。

両輪がそろってこそ、組織は健全に前進します。


「働きやすさ」の基盤を整える

まず、「働きやすさ」の基盤を整えることから始めましょう。これがなければ、「働きがい」の議論はそもそも成立しません。

基盤1:労働時間の適正化。

月間の残業時間を把握し、是正する。特に特定の個人や部門に残業が集中している場合、業務の再分配や業務プロセスの見直しを行う。

基盤2:公正な評価と報酬。

何をすれば評価されるのかが明確であること。頑張りが報酬に反映されること。この「公正さ」が欠けると、どんなにやりがいがあっても不満が蓄積します。

基盤3:安心できる人間関係。

ハラスメントがなく、困った時に相談できる人がいて、失敗しても責められない。この心理的安全性が、「働きやすさ」の最も重要な要素です。

基盤4:健康への配慮。

健康診断の実施、メンタルヘルス対策、職場環境の整備——社員の心身の健康を守る仕組みがあること。

水戸市のある食品メーカーでは、「働きやすさスコア」として、残業時間、有給取得率、従業員満足度調査の結果を四半期ごとに集計し、全社に公開しています。「数字で見える化」することで、改善すべき点が明確になり、継続的な取り組みのモチベーションになっています。


「働きがい」を生み出す仕組み

「働きやすさ」の基盤が整ったら、次に「働きがい」を意図的に生み出す仕組みを作ります。

仕組み1:仕事の「意味」を伝える。

社員一人ひとりの仕事が、会社の事業目標にどうつながっているかを伝える。「あなたが作っている部品は、最終的に○○という製品になり、○○の市場で○億円の売上に貢献している」——こうした「つながり」が見えることで、仕事の意味が生まれます。

経営者が定期的に全社向けに事業の状況を共有する場を設け、「今、会社はこういう状況にあり、皆さんの仕事がこう貢献している」と伝えることが有効です。

前橋市のある部品メーカーでは、月に一度の全体ミーティングで、社長が「今月の受注状況」と「各部門の仕事がどう事業に貢献したか」を10分間で説明しています。「製造部の○○さんが提案してくれた工程改善で、納期短縮ができ、大口顧客からの追加受注につながった」——こうした具体的なエピソードが語られることで、社員の「自分の仕事には意味がある」という実感が高まったといいます。

仕組み2:成長の機会を提供する。

「今の仕事ができるようになった。次は何に挑戦しよう」——この「成長の階段」が見えることが、働きがいの大きな源泉です。

  • 新しい仕事へのチャレンジ機会
  • 研修や資格取得の支援
  • 社内勉強会や技術発表会
  • 異なる部門の業務を経験する「ジョブローテーション」
  • 外部セミナーや業界イベントへの参加

「今年はこのスキルを身につける」「来年はこのプロジェクトに挑戦する」——こうした目標が具体的に設定されていることで、日々の仕事に「成長している」という手応えが生まれます。

仕組み3:自律性を高める。

「言われたことをやるだけ」の仕事では、働きがいは生まれにくい。自分で考え、工夫し、判断する余地があること——つまり「自律性」が、働きがいの重要な要素です。

中小企業では、「社長が全部決める」という組織が多い。しかし、社員に一定の裁量権を与え、「自分で考えてやってみていい」という環境を作ることで、仕事への主体性が生まれます。

もちろん、「丸投げ」ではなく、「方向性は示すが、進め方は任せる」というバランスが重要です。

仕組み4:「承認」の文化を作る。

人は、自分の仕事が認められた時に、最も強い「やりがい」を感じます。「ありがとう」「よくやった」「あなたのおかげで助かった」——こうした言葉が日常的に交わされる組織は、働きがいが高い。

承認は、報酬や昇進だけではありません。上司からの一言、同僚からの感謝、顧客からの喜びの声——あらゆる場面で「認められた」と感じる機会を作ることが大切です。

栃木のあるサービス企業では、「Good Job カード」という仕組みを導入しています。社員が互いの良い仕事を見つけたら、名刺サイズのカードにメッセージを書いて渡す。月末に最もカードを多く受け取った社員を表彰する。このシンプルな仕組みが、「お互いの仕事を見る」「良いところを認め合う」文化を醸成しています。

仕組み5:会社の「ビジョン」に共感できる場を作る。

「この会社は、何のために存在しているのか」「この会社は、どこに向かっているのか」——この問いに対する答え、つまり会社のビジョンやミッションに共感できることは、働きがいの大きな要素です。

中小企業では、ビジョンが明文化されていなかったり、あっても社員に浸透していなかったりすることが多い。経営者が「自分はこういう会社を作りたい」「この事業を通じてこういう価値を社会に提供したい」と語る場を定期的に設けることで、社員の共感と一体感が生まれます。


「働きがい」を定量的に把握する

「働きがい」は主観的なものですが、定量的に把握することは可能です。

従業員エンゲージメントサーベイの実施。

年1回から2回、全社員を対象にしたアンケート調査を実施します。

質問例:

  • 「あなたは自分の仕事にやりがいを感じていますか?」(1〜5のスケール)
  • 「あなたは仕事を通じて成長していると感じますか?」
  • 「あなたの仕事は会社の目標達成に貢献していると感じますか?」
  • 「あなたはこの会社で働き続けたいと思いますか?」
  • 「あなたは友人にこの会社を勧めたいと思いますか?」(eNPS:従業員推奨度)

スコアを部門別、年代別、職種別に分析することで、「どの層で働きがいが低いか」「どの要素が弱いか」が見えてきます。

サーベイ結果と経営数字の相関分析。

エンゲージメントスコアと、離職率、生産性、顧客満足度などの経営数字を並べて分析することで、「働きがいが事業にどう影響しているか」を可視化できます。

高崎市のある製造業では、エンゲージメントサーベイを導入して3年目。「エンゲージメントスコアが高い部門ほど、不良率が低く、離職率も低い」という相関が明確に出ています。この結果を経営会議で共有したところ、「エンゲージメント向上は経営施策として取り組む価値がある」と経営者が認識し、予算が確保されました。


両立のための「バランスチェック」

「働きやすさ」と「働きがい」のバランスを定期的にチェックする仕組みを作ります。

2軸のマトリクスで考えると、自社の状態が見えてきます。

  • 「働きやすさ」高×「働きがい」高:理想的な状態。社員が安心して、かつ前向きに働いている。
  • 「働きやすさ」高×「働きがい」低:「楽だけど退屈」。若手や意欲の高い社員が流出するリスク。
  • 「働きやすさ」低×「働きがい」高:「やりがい搾取」。短期的には頑張れるが、長期的にはバーンアウトのリスク。
  • 「働きやすさ」低×「働きがい」低:危機的状態。離職が加速し、組織が崩壊するリスク。

自社がどの象限にいるかを把握し、弱い方の軸を強化する施策を打つ。これが「両立」のための基本的なアプローチです。


経営者の役割

「働きがい」と「働きやすさ」の両立を実現するためには、経営者の姿勢が決定的に重要です。

経営者自身が「働きがい」を語る。

「この仕事には意味がある」「この事業は社会に貢献している」——経営者自身がこうした信念を持ち、それを言葉にして社員に伝えること。経営者の熱意は、組織全体に伝播します。

経営者が「働きやすさ」に投資する覚悟を持つ。

労働環境の改善には、コストがかかります。残業を減らすためには人員の補充が必要かもしれない。研修には費用がかかる。これらを「コスト」ではなく「投資」と捉え、腹を括って取り組むこと。

経営者が「対話」を続ける。

社員と定期的に対話し、「何にやりがいを感じているか」「何が働きにくいか」を直接聞く。北関東の中小企業は、経営者と社員の距離が近いという強みがあります。この「近さ」を活かし、経営者自身が社員の声を聴くこと。


「両利きの人事」としての挑戦

「働きやすさ」という守りの施策と、「働きがい」という攻めの施策を同時に進めること。これは、経営数字から発想する「両利きの人事」そのものです。

守りが甘ければ、社員は疲弊し、離職する。攻めがなければ、社員は停滞し、活力を失う。両方を同時に追求することで、社員一人ひとりが持続的に力を発揮し、事業の成長を支える組織が生まれます。

北関東の中小企業には、東京の大企業にはない強みがあります。経営者と社員の距離が近い。地域の結びつきが強い。仕事の成果が見えやすい。この強みを活かし、「働きやすくて、働きがいもある会社」を作ること。それは、社員にとっても、企業にとっても、そして地域にとっても、大きな価値を持つ挑戦です。簡単な道ではありませんが、一歩ずつ進めていけば、必ず手応えのある変化が生まれます。その第一歩を、今日から踏み出してほしいと思います。

0

経営視点で考える人事の実践力を磨きませんか?

書籍『「人事のプロ」はこう動く』著者による実践講座。現場で使える経営視点の人事力を身につけます。

関連記事

北関東の企業が「人材紹介会社」との付き合い方を最適化する方法
経営参画・数字

北関東の企業が「人材紹介会社」との付き合い方を最適化する方法

人材紹介会社に依頼しているが、なかなか良い人材を紹介してもらえない紹介料が高くて、費用対効果が合わない紹介会社がうちの会社のことを理解してくれていない——北関東の中小企業が人材紹介会社を利用する際に、こうした不満を抱えているケースは珍しくありません。

#採用#組織開発#経営参画
北関東の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法
経営参画・数字

北関東の企業が「人事BPO」を活用して戦略業務に集中する方法

人事の仕事が事務作業ばかりで、本来やるべきことに手が回らない——北関東の中小企業の人事担当者から、こうした声を頻繁に聞きます。給与計算、社会保険の手続き、勤怠管理、年末調整——これらの定型業務に日々追われ、採用戦略の立案、人材育成の企画、組織課題の分析といった戦略的な仕事に取り組む時間が確保できない。

#採用#評価#研修
北関東の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法
経営参画・数字

北関東の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法

人事制度が複雑すぎて、誰も理解していない——北関東の中小企業で、こうした状態に陥っている企業は少なくありません。等級制度、評価制度、報酬制度、各種手当、研修体系——年月を重ねるうちに制度が積み重なり、全体像を把握している人が社内に一人もいないという事態も起きています。

#評価#研修#組織開発
茨城の企業が「タレントマネジメント」を始めるための第一歩
経営参画・数字

茨城の企業が「タレントマネジメント」を始めるための第一歩

タレントマネジメントという言葉を、人事関連のメディアや書籍で目にする機会が増えました。しかし、茨城の中小企業の経営者や人事担当者にタレントマネジメントに取り組んでいますかと尋ねると、名前は聞いたことがあるが、何をすればよいかわからない大企業やIT企業がやるもので、うちには関係ないという反応が返ってくるこ

#採用#評価#研修