
北関東の採用課題——「人が来ない」の先にある本質的な問い
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北関東の採用課題——「人が来ない」の先にある本質的な問い
「求人を出しても応募が来ない」——北関東で人事をやっている方なら、一度は口にしたことがある言葉ではないでしょうか。
群馬・栃木・茨城。この3県は、首都圏に隣接しながらも独自の産業基盤を持つ地域です。自動車関連の製造業、農業・食品加工、物流拠点、そして近年はIT企業の進出も増えています。しかし、どの業種でも共通しているのが、「採用が難しい」という悩みです。
ただ、ここで一歩立ち止まって考えてみたい。「採用が難しい」という言葉の裏には、実はいくつもの異なる課題が隠れています。それを整理しないまま、手段だけを変えても状況は変わりません。求人媒体を変える、採用サイトをリニューアルする、SNSを始める——どれも手段としては正しいかもしれませんが、問題の構造を見ないまま走り出すと、コストだけがかさんでいきます。
北関東の採用課題を、事業の文脈から捉え直してみましょう。
「応募が来ない」の中身を分解する
「人が来ない」と一口に言っても、実態は企業ごとにまったく異なります。まず、自社の採用課題がどこにあるのかを正確に把握することが出発点です。
量の問題か、質の問題か。
応募者の数自体が足りないのか、それとも応募はあるが求める人材像とマッチしないのか。この2つは、打ち手がまったく違います。量が足りないなら認知の拡大が必要ですし、質のミスマッチなら自社の魅力や求める人材像の伝え方を見直す必要があります。
辞退の問題か、離職の問題か。
内定を出しても辞退される。入社しても1年以内に辞めてしまう。どちらも「採用がうまくいっていない」と感じる原因になりますが、対処すべきポイントは異なります。辞退が多いなら選考プロセスや条件提示の改善が必要ですし、早期離職が多いなら入社後のオンボーディングや職場環境に目を向けるべきです。
そもそもの母集団形成の問題か。
北関東では、新卒の大学生が東京に流出する傾向が強い。中途採用でも、リモートワーク可能な都市部の企業に人材が吸われやすい環境にあります。地域特有の母集団形成の壁を理解した上で、戦い方を考える必要があります。
北関東特有の採用環境を理解する
北関東の採用環境には、他の地方とは異なる特徴があります。
首都圏との「微妙な距離感」
東北や九州と違い、北関東は東京まで1〜2時間で通勤できるエリアを含んでいます。この距離感が、人材の流出を加速させています。「地元で働きたい」と考える人材も、東京の企業に通勤できてしまう。特に20代〜30代の若手にとって、給与水準の差は大きな判断材料になります。北関東の製造業と都市部の同規模企業を比べると、月額で2〜4万円の給与差が生じるケースも珍しくありません。この差を埋めるには、給与以外の魅力——裁量の大きさ、通勤時間の短さ、地域に根ざした事業の手触り感——を言語化して伝える工夫が必要です。
一方で、この距離感は逆手に取ることもできます。「東京で疲弊した人が、生活の質を求めて北関東に戻る」という流れも確かに存在します。Uターン・Iターンの受け皿としてのポジションを意識的に作れるかどうかが、北関東企業の採用力を左右します。
産業構造の多様性
北関東は、製造業・農業・物流・サービス業が混在する地域です。太田市や日立市のような製造業の集積地もあれば、宇都宮市や前橋市のような商業都市もある。この多様性は、業種間の人材獲得競争を生みやすい構造です。
製造業の企業が「うちに来てほしい」と思っても、同じ地域のサービス業やIT企業と比較されてしまう。「働き方の自由度」「オフィス環境のきれいさ」といった、製造業が構造的に不利になりやすい要素で比べられることも少なくありません。
地域内のネットワークの強さ
一方で、北関東には地域コミュニティの結びつきが強いという特徴もあります。地元の高校・専門学校との関係、商工会議所や業界団体のつながり、取引先を通じた人脈——こうしたネットワークは、大都市にはない採用チャネルです。
ただし、このネットワークに「乗っかっている」だけでは不十分です。自社が地域でどういう存在なのか、どういう人材を求めているのかを能動的に発信しなければ、ネットワークは機能しません。
「自社の魅力」を事業の文脈で再定義する
採用で苦戦している企業の多くが、「自社の魅力が伝わっていない」と感じています。しかし、魅力の伝え方を考える前に、「何が魅力なのか」を事業の文脈から再定義する作業が必要です。
「アットホームな職場です」「福利厚生が充実しています」——こうした訴求は、もはや差別化にはなりません。求職者が本当に知りたいのは、「この会社で自分は何ができるのか」「どんな成長ができるのか」「この事業に将来性はあるのか」です。
ここで人事が経営と対話すべきは、「事業の3年後、5年後はどうなるのか」「その中で、どういう人材がどう活躍するのか」という問いです。採用メッセージは、事業戦略の一部として設計するもの。経営者と一緒に、事業の未来と人材の未来を語れるようになることが、北関東企業の採用力を根底から変えます。
たとえば、「当社は自動車部品の精密加工で30年の実績があります。今後はEV関連の新素材加工にも領域を広げます。その最前線で技術を磨きたい方を求めています」——この方が、「働きやすい職場です」よりもはるかに響く人には響きます。全員に刺さる必要はない。自社が本当に必要としている人材に、正確に届くメッセージを作ることが重要です。
採用プロセスを「求職者の体験」として設計する
求人票の書き方や採用チャネルの選定も大切ですが、それ以上に見直すべきは「採用プロセス全体の設計」です。
求職者にとっての採用プロセスは、その会社を知る最初の「体験」です。応募してから内定までの期間、面接の進め方、連絡のスピード、面接官の態度——すべてが「この会社はどういう会社か」を伝えるメッセージになっています。
北関東の中小企業では、人事担当者が少ないために、応募への返信が遅れたり、面接日程の調整に時間がかかったりすることがあります。求職者は複数社を同時に見ていますから、レスポンスが遅い時点で選択肢から外されてしまう。
改善のポイントは大きな投資を必要としないものも多い。応募から24時間以内に一次返信をする。面接後2日以内にフィードバックを送る。こうした「スピード」と「丁寧さ」の両立が、選考辞退率を大きく下げることがあります。
また、面接を「選ぶ場」ではなく「互いに知る場」として設計し直すことも有効です。一方的に質問するのではなく、自社の事業や課題を率直に話す。入社後のリアルなイメージを共有する。こうした面接体験が、「この会社で働きたい」という気持ちを育てます。
採用を「点」ではなく「線」で考える
採用活動を「求人を出して、応募を待って、選考して、内定を出す」という一連の点で捉えている企業が、北関東にはまだ多いように感じます。しかし、採用はもっと長い時間軸で設計すべきものです。
たとえば、地元の高校や専門学校との関係づくり。いきなり「人をください」ではなく、工場見学の受け入れ、インターンシップの実施、出前授業への参加など、普段からの接点づくりが、将来の応募につながります。
中途採用でも同じです。すぐに転職する気はないが、将来的に北関東で働きたいと考えている「潜在層」との接点を持っておくこと。自社のブログやSNSで、事業の近況や社員の声を定期的に発信することが、「いつか応募しよう」という気持ちを育てます。
人事担当者が少ない中小企業こそ、この「線」の発想が重要です。一度の採用活動に全力を注ぐのではなく、日常的に「自社を知ってもらう活動」を継続する。その積み重ねが、3年後、5年後の採用力の差になります。
経営者と「採用の話」をするために
北関東の中小企業では、経営者が採用に対して「人事が何とかしてくれ」というスタンスを取ることがあります。しかし、採用は人事部門だけで完結する仕事ではありません。
経営者に採用課題を伝えるとき、「人が来ないんです」では動いてもらえません。「採用充足率が70%で、生産ラインの稼働に影響が出ています」「競合他社との給与差が月額3万円あり、内定辞退の主因になっています」——数字と事業影響を結びつけて語ることで、経営者の意思決定を引き出すことができます。
採用は、経営戦略の一部です。事業計画と連動した人員計画を作り、経営会議の議題に「採用と人材」を定期的に上げていく。人事がこのアクションを取ることで、採用は「人事の仕事」から「経営の課題」に引き上げられます。
採用コストの「見える化」から始める
北関東の中小企業で、採用にかかっているトータルコストを正確に把握している企業は、実は多くありません。求人媒体への掲載費は見えますが、面接に費やす管理職の工数、入社後研修のコスト、早期離職が起きた場合の再採用費用——こうした「見えにくいコスト」を含めると、1名採用にかかるコストは80〜150万円になるケースが多い。
このコスト感覚を経営者と共有することが、採用への投資判断を引き出す第一歩です。「求人媒体を変えるために50万円かかります」という提案は通りにくいですが、「現在の早期離職率が続くと、毎年採用に費やすコストは○○万円。選考プロセスを改善して定着率を5%上げれば、3年間で△△万円の削減が見込めます」という試算を示せると、経営者の反応が変わります。
また、採用コストの内訳を分析すると、改善の優先順位も見えてきます。「応募は来ているが内定辞退が多い」なら選考体験の改善が先です。「そもそも応募が少ない」なら認知拡大のチャンネルを見直す。コストを「見える化」することで、「なんとなく媒体を変える」ではなく、根拠のある打ち手を選べるようになります。
茨城のある食品加工メーカーの人事担当者は「採用コストを試算して経営者に見せたら、初めて採用を本気で考えてくれるようになった」と話していました。数字を持って経営者と話す——これが、採用を「人事だけの仕事」から「経営の課題」に引き上げる実践的な第一歩です。
「人が来ない」を超えて、北関東の強みを活かす
北関東の企業には、大都市の企業にはない強みがあります。地域に根ざした事業の安定性、生活コストの低さからくるワークライフバランスの実現しやすさ、密な人間関係の中で成長できる環境。
これらの強みは、「人が来ない」という悩みの中では見えにくくなりがちです。しかし、自社の強みを事業の文脈と結びつけて言語化し、正確に届けることができれば、北関東で人事をやることの可能性は確実に広がります。
採用課題を嘆くのではなく、構造的に理解し、事業戦略と接続させ、地域の特性を活かした打ち手を設計していく。その積み重ねが、北関東の企業の未来を作ります。
一点付け加えるとすれば、採用がうまくいかない背景には、「人事だけが焦っていて、現場も経営も温度差がある」という状態が隠れていることがよくあります。採用力は、人事部門単体の頑張りではなく、組織全体の「魅力と信頼の総量」です。現場が採用に協力的になり、経営者が採用メッセージを自分の言葉で語り、社員が自社を誇りを持って紹介できる——そういう組織文化を作ることこそが、北関東における採用課題の根本的な解決につながります。人事はその設計者であり、触媒です。
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