北関東へのU・Iターン採用——「帰ってきてほしい」だけでは届かない
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北関東へのU・Iターン採用——「帰ってきてほしい」だけでは届かない
「地元に優秀な人材を呼び戻したい」——北関東で人事を担当している方であれば、U・Iターン採用に一度は期待を寄せたことがあるのではないでしょうか。
群馬・栃木・茨城の3県は、東京圏への人口流出が続いている地域です。特に18歳時点での流出が大きく、大学進学とともに首都圏へ移動し、そのまま都市部で就職するパターンが定着しています。一方で、30代以降になると「地元に戻りたい」「地方で子育てしたい」と考え始める層が確かに存在します。
U・Iターン採用は、北関東企業にとって有力な人材獲得チャネルです。しかし、「帰ってきてほしい」「来てほしい」という気持ちだけでは、人は動きません。都市部で経験を積んだ人材が、なぜわざわざ北関東の企業を選ぶのか。その問いに、事業の文脈から答えを用意できているかどうかが、U・Iターン採用の成否を分けます。
なぜ今、U・Iターンに注目すべきなのか
北関東のU・Iターン採用が注目される背景には、いくつかの構造的変化があります。
リモートワークの普及による「場所の再定義」
コロナ禍以降、リモートワークが当たり前になったことで、「東京にいなくても仕事ができる」という感覚が広まりました。完全リモートでなくても、週に数日の出社で済むなら北関東から通えるという選択肢が生まれています。
この変化は、北関東企業にとって追い風です。ただし、「リモートで東京の会社に勤めながら北関東に住む」という選択と、「北関東の企業に転職する」という選択は、別のものです。前者が増えるほど、地元企業は「わざわざ転職してもらう理由」をより強く示す必要があります。
ライフステージの変化
30代半ばから40代にかけて、結婚・出産・子育て・親の介護といったライフイベントが重なります。都市部の生活コストや通勤ストレスに疑問を感じ始めるタイミングで、地方での暮らしが現実的な選択肢として浮かび上がります。
北関東は、東京との距離が近いため、「完全に田舎に引っ込む」のではなく「都市の利便性をある程度保ちながら、生活の質を上げる」というバランスが取りやすい地域です。この「中間のポジション」は、U・Iターン希望者にとって大きな魅力になり得ます。
地域産業の高度化
北関東の製造業を中心に、EV化対応、DX推進、グローバル展開など、事業の高度化が進んでいます。これに伴い、都市部で専門スキルを身につけた人材へのニーズが高まっています。「地元企業に戻る=キャリアダウン」ではなく、「より大きな裁量を持って事業に関われる」という実態が生まれつつあります。
U・Iターン採用がうまくいかない3つのパターン
北関東企業のU・Iターン採用には、よく見られる失敗パターンがあります。
パターン1:「待ち」の姿勢
「地元出身者なら興味を持ってくれるだろう」「転職サイトに掲載すれば応募が来るだろう」——この「待ち」の姿勢では、U・Iターン人材は獲得できません。
都市部で働いている人にとって、北関東の企業は「知らない会社」です。地元出身であっても、地元企業の現在の事業内容や規模を知らないことがほとんど。まずは認知を作るところから始める必要があります。
パターン2:「地元愛」だけに頼る訴求
「ふるさとで働きませんか」「地元に恩返ししませんか」——こうした情緒的な訴求は、共感は生んでも行動にはつながりにくい。転職は人生の重要な意思決定です。家族の生活、キャリアの方向性、収入の見通し——これらをトータルで判断した上で、「合理的に選べる理由」を提示しなければ、最終的な決断には至りません。
パターン3:条件面のギャップを認識していない
都市部と北関東の給与水準には差があります。これは構造的な現実です。しかし、この差をまったく認識せず、「うちの給与テーブルはこれです」と一律に提示してしまうと、U・Iターン候補者は離れていきます。
給与だけではありません。役職、裁量の範囲、成長機会、働き方の柔軟性——総合的な「報酬パッケージ」として提示する発想が必要です。「年収は100万下がるが、通勤時間は片道1時間短くなり、マネジメントポジションに就ける」——こうしたトータルの提案ができるかどうかが鍵です。
U・Iターン人材に届くメッセージの作り方
では、U・Iターン人材に対してどのようなメッセージを発信すべきか。ポイントは3つあります。
1. 事業の「今」と「これから」を具体的に語る
U・Iターン候補者が最も知りたいのは、「この会社で自分は何ができるのか」です。会社の歴史や規模よりも、今どんな事業課題に取り組んでいて、これからどこに向かおうとしているのかを具体的に語ること。
「当社は創業50年の化学メーカーですが、2年前からバイオ素材の研究開発部門を立ち上げました。都市部の化学メーカーで研究開発経験のある方に、このチームのリーダーとして参画していただきたい」——こうした具体性のあるメッセージは、キャリアの接続点を明確にします。
2. 「暮らし」の情報を惜しみなく提供する
U・Iターンは、転職と同時に生活環境が変わる大きな決断です。仕事の情報だけでなく、暮らしの情報が意思決定を後押しします。
住居費の相場、子育て環境、教育機関、医療施設、通勤事情——こうした生活情報を、自社の採用ページや面接の場で積極的に提供すること。「宇都宮なら東京まで新幹線で50分。市内の3LDKマンションは月8万円台から」「つくばエクスプレス沿線なら秋葉原まで45分。研究都市ならではの教育環境も充実」——具体的な数字と生活像を示すことで、「行けるかも」という感覚が生まれます。
3. 先輩U・Iターン社員の声を活用する
すでに自社にU・Iターンで入社した社員がいるなら、その声は最も強い採用コンテンツになります。なぜ北関東を選んだのか、実際に働いてみてどうか、生活はどう変わったか——リアルな体験談は、候補者の不安を和らげる力を持っています。
社員インタビューを採用ページに掲載する、カジュアル面談の場で先輩社員と話す機会を作る——こうした取り組みは、特別な予算をかけずに実施できます。
採用の「前」と「後」を設計する
U・Iターン採用で特に重要なのは、「採用した後」の設計です。
都市部から北関東に移住して働き始めた人材は、最初の半年から1年が定着の分岐点です。仕事面での適応はもちろん、生活面での適応も大きな課題になります。
「職場には馴染めたが、地域に知り合いがいない」「家族が生活に慣れない」「思っていたよりも不便で、東京に戻りたくなった」——こうした声は珍しくありません。
人事として設計すべきは、入社後のオンボーディングに「生活面のサポート」を組み込むことです。地域のコミュニティへの橋渡し、家族向けの情報提供、定期的な面談で仕事以外の悩みも拾い上げる仕組み。こうした「生活の着地支援」が、U・Iターン人材の定着率を大きく左右します。
地域との連携でU・Iターンの受け皿を作る
U・Iターン採用は、一企業だけで取り組むには限界があります。自治体や地域団体との連携が、取り組みの効果を大きく広げます。
群馬・栃木・茨城の各県や市町村には、U・Iターン支援の施策があります。移住相談窓口、移住体験ツアー、移住支援金——こうした制度を自社の採用活動と連携させることで、候補者への訴求力が高まります。
たとえば、自治体が主催するU・Iターンフェアに出展する、地域の移住ポータルサイトに自社の求人を掲載する、ハローワークの地方人材還流事業を活用する——こうしたチャネルは、転職サイトだけではリーチできない層にアプローチできます。
また、同じ地域の複数企業と連携して、「北関東で働く」という選択肢自体の認知を高める取り組みも有効です。一社では発信力に限界がありますが、地域として束になれば、都市部の潜在的なU・Iターン層への到達力は格段に上がります。
「選ばれる理由」を持つ企業へ
U・Iターン採用の本質は、「帰ってきてほしい」ではなく、「この会社を選ぶ理由がある」と思ってもらうことです。
北関東の企業には、都市部にはない価値があります。事業に対する一人ひとりの影響力の大きさ、意思決定のスピード、地域に根ざした事業の手触り感。これらは、大企業の歯車として働くことに疲れた人材にとって、確かな魅力になります。
ただし、その魅力は自然と伝わるものではありません。事業の文脈から言語化し、適切なチャネルで、適切な相手に届ける。人事がこの「翻訳者」の役割を担うことで、U・Iターン採用は「希望的観測」から「戦略的な人材獲得チャネル」に変わります。
北関東で人事に取り組むあなたの一歩が、地域の人材環境を変えていく力になります。
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