茨城の研究機関周辺企業が高度専門人材を採用する方法
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茨城の研究機関周辺企業が高度専門人材を採用する方法

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茨城の研究機関周辺企業が高度専門人材を採用する方法

つくば市には、約150の研究機関と研究関連企業が集積しています。JAXA、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構、高エネルギー加速器研究機構——日本の科学技術を支える頭脳が、この街に凝縮されている。

しかし、つくば周辺の中小企業がこの「知の集積」を自社の人材採用に活かせているかと問われると、多くの企業が首を横に振るのではないでしょうか。

私がこの10年間で茨城県内の企業を60社以上支援してきた中で、特につくば周辺の企業から繰り返し聞いてきたのが、「研究機関の近くにいるのに、専門人材が採れない」という悩みです。世界水準の研究者がすぐそばにいるのに、自社の技術開発を任せられる人材が見つからない。この矛盾の裏には、中小企業が高度専門人材を採用する際に陥りがちな構造的な問題が隠れています。

今回は、茨城の研究機関周辺企業が高度専門人材を採用するために、何を考え、どう動くべきかを整理していきます。


「高度専門人材」の実像を正確に捉える

まず、「高度専門人材」とは誰のことを指しているのかを明確にする必要があります。漠然と「優秀な研究者」を求めても、採用は成功しません。

研究者と技術者は違う。

つくばの研究機関にいるのは「研究者」です。新しい知識を生み出すことを仕事にしている人たちです。一方、中小企業が必要としているのは、多くの場合「技術者」——既存の知識や技術を応用して、事業化できる製品やサービスを作る人です。

この違いを理解せずに「研究所にいる人を採りたい」と言っても、マッチングは成立しません。研究者が企業に移るためには、研究マインドから事業マインドへの転換が必要です。そして、すべての研究者がその転換を望んでいるわけではありません。

つくば市のある分析機器メーカーで、産総研出身の研究者を中途採用したケースがあります。その方は研究所での成果をビジネスに活かしたいという強い意志を持っていましたが、入社後に「研究所のように自由にテーマを選べない」「短期で成果を求められる」というギャップに直面しました。結果として1年半で退職。採用にかかったコストだけでなく、その方が担当していたプロジェクトの遅延まで含めると、事業への影響は甚大でした。

「ポスドク問題」を理解する。

一方で、つくばの研究機関には「ポスドク」(博士研究員)と呼ばれる任期付き研究員が多数います。博士号を持ちながら安定した職に就けていない人たちです。彼らの中には、研究の道に見切りをつけて企業で活躍したいと考えている人も少なくありません。

しかし、中小企業側がポスドクの存在を知らなかったり、「博士号を持っている人は中小企業には来ないだろう」と思い込んでいたりするために、この人材プールが活用されていない。これは大きな機会損失です。

日立市のある素材メーカーでは、つくばの研究機関でポスドクをしていた化学系の博士人材を採用し、新素材の開発チームのリーダーに据えました。その方は研究能力だけでなく、論文を通じた情報収集力、データに基づく意思決定のスキル、英語での技術コミュニケーション能力を兼ね備えていた。入社2年目で新素材の特許を出願し、3年目にはその素材を使った新製品が事業化された。採用時の年収600万円に対して、その製品がもたらした売上は初年度で3,000万円。投資対効果として極めて高い採用でした。


つくばの「知のエコシステム」を採用に活かす

つくば周辺企業の最大の武器は、研究機関との地理的近接性です。この地の利を採用にどう活かすかが鍵になります。

産学連携を「採用チャネル」として設計する。

多くの企業が産学連携を「技術開発」の文脈でしか考えていませんが、産学連携は実は最も効果的な採用チャネルのひとつです。

共同研究を通じて研究者と一緒に仕事をすれば、お互いの力量や相性がわかります。研究者側も、企業の技術レベルや仕事の進め方を実感できる。これは、面接では得られない相互理解です。

つくば市のあるバイオ系ベンチャーでは、産総研との共同研究を3年間続ける中で、研究チームの若手研究者2名を中途採用することに成功しました。「一緒に仕事をして、この会社の技術に将来性を感じた」というのが入社の動機。共同研究のコストを純粋に採用投資として見れば高額ですが、研究成果と人材獲得の両方を得られたと考えれば、十分に合理的な投資でした。

つくばの「交流の場」に参加する。

つくばには、研究者と企業が交流する場が数多くあります。つくばサイエンスシティのネットワーク、つくばグローバル・イノベーション推進機構の各種イベント、大学・研究機関のオープンハウス——こうした場に、採用目的を明確に持って参加することが重要です。

ただし、いきなり「うちに来ませんか」と声をかけても効果はありません。まずは自社の技術的な課題や挑戦を率直に語り、研究者との技術的な対話を重ねる。その中で「この企業は面白いことをやっている」という認知を広げていく。採用は、信頼関係の上に成り立つものです。

大学院生へのアプローチ。

筑波大学をはじめ、茨城県内の大学には理工系の大学院生が多数在籍しています。修士課程の学生は、企業就職を前提にしている場合が多い。しかし、中小企業の多くは新卒採用で大学院生をターゲットにしていません。「うちのような中小企業に修士は来ない」という思い込みが、機会を逃しています。

土浦市のある光学機器メーカーでは、筑波大学の理工学群の研究室に年に2回「技術セミナー」を開催しています。自社の光学技術を紹介し、学生との質疑応答を行う。この取り組みを5年間続けた結果、修士卒の新卒採用が安定的にできるようになりました。学生にとっても、「自分の専門知識が活かせる企業が地元にある」という発見は大きかったようです。


高度専門人材が「企業を選ぶ基準」を理解する

高度専門人材が転職先を選ぶ基準は、一般的な求職者とは異なります。この違いを理解しないまま、従来型の求人活動をしても効果は限定的です。

「何ができるか」よりも「何に挑戦できるか」。

高度専門人材にとって最も重要なのは、「自分の専門性をどこまで伸ばせるか」です。今の自分ができることをそのまま活かす仕事よりも、新しい領域に挑戦できる環境のほうが魅力的に映ります。

「安定した仕事がある」「福利厚生が良い」ではなく、「この技術的課題に一緒に取り組みたい」「この研究をビジネスにするプロセスに関わりたい」——こうした知的好奇心を刺激するメッセージが、高度専門人材の心を動かします。

研究設備・開発環境への投資を見ている。

高度専門人材は、入社前に企業の開発環境を確認します。どんな分析装置があるのか、計算リソースはどの程度か、実験設備は最新のものか。中小企業が大手と同じ設備投資をする必要はありませんが、「自社の事業に必要な設備には投資している」という姿勢が伝わることは重要です。

つくば市のあるセンサーメーカーでは、年間売上高の5%を研究開発費に充てる方針を明文化し、採用面接で候補者に説明しています。「売上10億円の5%だから5,000万円。大手に比べれば少ないが、この規模の企業としてはかなりの投資をしている」という事実が、専門人材にとっての判断材料になります。

学術コミュニティとの接点を維持できるか。

研究者出身の専門人材にとって、学術コミュニティとのつながりは重要です。学会発表の機会、論文投稿の支援、大学・研究機関との交流——こうした活動を企業が認めてくれるかどうかは、入社を決める大きな要因になります。

「企業に入ったら学会には行けなくなる」と思い込んでいる研究者は多い。しかし、学会参加を支援する制度を設けている中小企業も実際にあります。学術コミュニティとの接点は、技術情報の収集チャネルとしても、企業のブランディングとしても価値があります。


経営数字から考える「専門人材への投資」

高度専門人材の採用は、一般的な採用よりもコストがかかります。年収水準が高い、採用に時間がかかる、オンボーディングにも配慮が必要——だからこそ、この投資を経営数字から正当化する作業が不可欠です。

専門人材がもたらす「付加価値」を試算する。

高度専門人材を採用することで、事業にどれだけの付加価値が生まれるのか。新製品の開発、既存製品の高付加価値化、技術的な差別化による価格競争力の向上——こうした効果を、できるだけ具体的な数字で見積もることが大切です。

たとえば、分析技術の専門家を採用することで、品質検査の精度が上がり、不良率が1%低下したとします。年間生産額が5億円の企業なら、不良率1%の低下は年間500万円のコスト削減に相当する。さらに、高精度な品質保証が可能になることで、単価の高い案件を受注できるようになれば、売上増にもつながる。こうした試算を積み上げれば、年収600万円の専門人材を採用する投資の妥当性が見えてきます。

「人材ポートフォリオ」の視点で考える。

すべての社員を高度専門人材にする必要はありません。組織全体として、どのポジションにどんなレベルの人材が必要なのかを、ポートフォリオとして設計することが重要です。

10人の技術チームの中に、1〜2人の高度専門人材がいれば、チーム全体の技術レベルが底上げされます。専門人材が「技術の灯台」となって、方向性を示し、他のメンバーの技術的な判断を支援する。この「レバレッジ効果」を含めて投資対効果を考えるべきです。


入社後の「活躍の仕組み」を整える

高度専門人材を採用できても、入社後に活躍できなければ意味がありません。中小企業においては、専門人材が活躍するための環境整備が特に重要です。

専門人材の「役割」を明確にする。

中小企業では、社員一人ひとりが複数の役割を兼務するのが当たり前です。しかし、高度専門人材に雑務まで負わせてしまうと、専門性が発揮できなくなります。「この人には技術開発に集中してもらう」という経営判断を、組織的に支えることが必要です。

守谷市のある化学品メーカーでは、採用した博士人材の業務時間の70%を技術開発に充てることを方針として明文化しました。残りの30%で品質管理のサポートや後輩指導を行う。この「70:30ルール」を全社に周知することで、周囲の社員も「あの人は技術開発が主業務だ」と理解し、不要な依頼が減りました。

「研究者文化」と「企業文化」の橋渡しをする。

研究機関出身者と、中小企業のプロパー社員の間には、仕事の進め方に大きな違いがあります。研究者は「なぜそうなるのか」を深く追求するが、現場の社員は「どうすれば動くか」を重視する。この違いを対立ではなく、相互補完として活かす工夫が求められます。

具体的には、専門人材と現場の社員が定期的に技術交流する場を設けることが有効です。月に一度の「技術共有会」で、専門人材が最新の技術動向を紹介し、現場の社員が製造上の課題を共有する。この対話を通じて、お互いの知識が融合し、新しいアイデアが生まれることがあります。

キャリアパスの複線化。

高度専門人材にとって、「管理職になる」以外のキャリアパスがあることは重要です。専門職として技術を極めるキャリアと、マネジメントに進むキャリアを並立させる「複線型キャリアパス」を設計することで、「専門性を活かし続けたい」という人材のニーズに応えられます。


茨城・つくばだからできる「専門人材採用の未来」

茨城県、特につくば周辺には、日本の他の地域にはない圧倒的な「知的インフラ」があります。この地の利を活かした専門人材の採用は、つくば周辺企業だけの特権です。

しかし、その特権は何もしなければ活かされません。研究機関との関係づくり、大学院生へのアプローチ、専門人材が活躍できる組織環境の整備——これらを戦略的に、継続的に取り組むことが求められます。

「うちのような中小企業に博士人材は来ない」——この思い込みを捨てることが、第一歩です。つくばの知の集積を自社の事業成長に結びつけること。それが、茨城の企業が持続的に成長するための、最も賢い人材戦略だと私は考えています。

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