
北関東の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
目次
北関東の企業が「採用要件」を経営戦略から逆算する方法
「営業を3人採ってほしい」——現場からこう言われた人事担当者が、すぐに求人票を書き始める。北関東の中小企業では、こうした光景がよく見られます。しかし、立ち止まって考える必要があります。なぜ営業が3人必要なのか。本当に3人なのか。どんなスキルや経験を持った人材が必要なのか。その根拠はどこにあるのか。
採用要件を「現場の要望」だけで決めてしまうと、事業全体の方向性とずれた採用になるリスクがあります。現場は今の業務を回すために人を求めますが、経営が目指す3年後、5年後の姿を見据えた人材確保にはなっていないかもしれません。
採用要件を経営戦略から逆算するとは、「会社が将来どこに向かおうとしているか」を起点にして、「そのためにどんな人材が必要か」を導き出すアプローチです。これにより、採用が単なる「欠員補充」から「戦略的な人材投資」に変わります。
今回は、北関東の企業が採用要件を経営戦略から逆算して設定するための具体的な方法を考えます。
「欠員補充」型採用の限界
多くの中小企業の採用は、「欠員が出たから補充する」「忙しくなったから増員する」という「リアクティブ(後追い)」な採用です。この方法には明確な限界があります。
限界1:常に後手に回る。
人が辞めてから動き始めるため、採用までの間、現場は人手不足で苦しみます。急いで採用しようとすれば、採用基準が甘くなり、ミスマッチが起きやすい。ミスマッチで早期退職が発生すれば、また欠員が生まれる。この悪循環から抜け出せません。
限界2:事業の変化に対応できない。
事業環境は変化します。新しい技術への対応、新市場への参入、既存事業の縮小——こうした変化に伴い、必要な人材のスキルセットも変わります。欠員補充型の採用では、「今いる人と同じスキルの人」を採用しがちで、事業の変化に必要な新しいスキルを持つ人材を確保できません。
限界3:投資対効果が見えない。
採用にかかるコストは、決して小さくありません。求人広告費、紹介手数料、面接にかける時間、研修コスト——これらの投資が、事業の成長にどう貢献しているのかが見えなければ、経営者は採用への投資に消極的になります。
太田市のある機械部品メーカーでは、毎年のように「忙しくなったら採用、暇になったらストップ」を繰り返していました。景気が良くなると急に採用しようとしますが、好景気の時は採用市場も過熱しており、良い人材が採れない。この繰り返しで、慢性的に人材の質と量が不足する状態が続いていました。
経営戦略から採用要件を逆算する「5つのステップ」
ステップ1:経営戦略の理解と言語化。
まず、自社の経営戦略を明確に理解します。「3年後にどうなりたいか」「5年後にどの事業領域でどのくらいの売上を目指すか」「どの市場で勝負するか」——こうした経営の方向性を、人事として正確に把握します。
ここで重要なのは、経営者との直接の対話です。中期経営計画の文書を読むだけでなく、経営者が考えている「行間」を理解する。「この計画の中で、最も重要な挑戦は何ですか?」「最大のリスクは何ですか?」「人に関して最も心配していることは何ですか?」——こうした質問を通じて、経営者の頭の中にある構想を引き出します。
高崎市のあるIT企業では、人事担当者が四半期に1回、社長と「経営と人事の戦略ミーティング」を行っています。このミーティングで、事業の方向性の変化、新規事業の計画、組織上の課題を共有し、人事戦略に反映しています。
ステップ2:事業計画を「必要な機能」に分解する。
経営戦略を理解したら、それを「事業計画の実行に必要な機能(capability)」に分解します。
例えば、「3年以内に海外売上比率を20%にする」という目標があれば、必要な機能は「海外営業力」「英語でのコミュニケーション能力」「貿易実務知識」「現地パートナーとの関係構築力」などです。
「新製品開発を加速する」であれば、「設計技術力」「プロジェクトマネジメント力」「品質管理知識」「市場調査力」などが必要です。
ステップ3:現在の人材ポートフォリオとのギャップ分析。
必要な機能が明確になったら、現在の社員がどの程度その機能を保有しているかを評価します。スキルマップがあれば、このステップは比較的スムーズに進みます。
ギャップが見つかったら、そのギャップを「社内で育成する」か「外部から採用する」かを判断します。育成に時間がかかりすぎる場合、あるいは社内に全くノウハウがない場合は、外部からの採用が選択肢になります。
ステップ4:採用要件の具体化。
「外部から採用する」と判断した機能について、具体的な採用要件を設定します。
採用要件は、以下の項目で構成します。
必須要件(Must):この要件を満たさなければ、採用しない。例えば、「製造業での品質管理経験3年以上」「普通自動車免許」など。 歓迎要件(Want):あれば望ましいが、必須ではない。例えば、「ISO9001の内部監査員資格」「マネジメント経験」など。 人物要件:価値観や行動特性に関する要件。例えば、「変化に柔軟に対応できる」「チームワークを重視する」など。
要件は具体的かつ測定可能であることが重要です。「コミュニケーション能力が高い」では曖昧すぎます。「顧客との技術的な折衝経験がある」「社内の複数部門と連携してプロジェクトを推進した経験がある」——こうした具体性が必要です。
宇都宮市のある食品メーカーでは、新たに海外事業部門を立ち上げる際、経営戦略から逆算して採用要件を設定しました。「食品業界での営業経験5年以上」「英語でのビジネスコミュニケーション能力」「アジア市場での事業経験」を必須要件とし、的を絞った採用活動を展開。結果として、東南アジアでの食品卸売経験を持つ人材の採用に成功し、海外事業の立ち上げがスムーズに進みました。
ステップ5:採用要件の定期的な見直し。
経営戦略は固定されたものではありません。市場環境の変化、競合の動き、技術の進化——こうした変化に応じて、経営戦略も修正されます。それに伴い、採用要件も定期的に見直す必要があります。
少なくとも半年に1回、経営の方向性に変化がないかを確認し、採用要件とのずれがないかをチェックします。
現場の要望と経営戦略をすり合わせる
採用要件を経営戦略から逆算するアプローチは、現場の要望を無視するものではありません。現場の要望と経営戦略の両方を踏まえた上で、最適な採用要件を設定することが目標です。
現場から「営業を3人採ってほしい」と言われたら、以下の質問を投げかけます。
「なぜ3人なのか。根拠となる数字はあるか」 「今の営業チームに不足しているスキルは何か」 「3年後の事業計画を踏まえた時に、どんな人材が必要か」 「育成で対応できる部分と、外部から採用すべき部分はどこか」
こうした対話を通じて、現場の要望を戦略的な採用要件に翻訳していきます。
前橋市のある建設資材メーカーでは、現場から「設計技術者を2名」という要望がありました。人事が経営戦略と照らし合わせたところ、3年後にBIM(建築情報モデリング)への対応が必要になることが判明。結果、単なる「設計技術者」ではなく、「BIMの知識を持つ、またはBIMに関心のある設計技術者」に採用要件を修正しました。
経営数字と採用をつなげる
採用要件を経営戦略から逆算するためには、人事が経営数字を理解していることが前提です。
売上高、利益率、一人あたりの生産性、人件費率、労働分配率——こうした経営指標を理解した上で、「この事業を伸ばすために、どんな人材に、いくらの投資をすべきか」を判断できる。これが戦略的な採用の基盤です。
「営業一人あたりの売上が5,000万円。来期の売上目標を2億円伸ばすなら、既存メンバーの生産性向上と合わせて、営業を3名追加する必要がある。ただし、新規顧客開拓に強い人材と、既存顧客の深耕に強い人材を1対2の比率で」——こうした論理で採用要件を組み立てられることが、戦略的な人事の力です。
採用要件の設定で陥りやすい「落とし穴」
落とし穴1:理想像を追いすぎる。
経営戦略から逆算すると、「こんな人がいたら最高だ」という理想像が膨らみがちです。「英語が話せて、技術がわかって、マネジメント経験があって、業界知識もある」——こうした「スーパーマン」を求めると、候補者は見つかりません。
必須要件と歓迎要件を明確に分け、必須要件は本当に譲れないものだけに絞ります。「この要件がなければ仕事ができない」というものと、「あれば望ましいが、入社後に習得できる」ものを区別することが重要です。
落とし穴2:現在の延長線上でしか考えない。
経営戦略は「変化」を前提としています。しかし、採用要件を考える際に、「今いる社員と同じような人」を無意識に求めてしまうことがあります。事業の方向転換に必要な「異質な人材」を採用する発想が必要です。
栃木のある電子部品メーカーでは、海外展開を計画する際、従来の「製造業出身者」だけでなく、「商社出身で海外事業の立ち上げ経験がある人材」を採用要件に加えました。「異なるバックグラウンドの人材を迎えることで、組織に新しい視点が入った」と経営者は振り返ります。
落とし穴3:人事だけで要件を決める。
採用要件は、人事だけで決めるものではありません。経営者の意向、現場の実態、市場の状況——これらを総合的に判断する必要があります。人事が一方的に「こういう人材を採る」と決めても、現場の理解が得られなければ、入社後にミスマッチが発生します。
経営戦略から逆算する文化を作る
採用要件を経営戦略から逆算するアプローチは、一度やって終わりではなく、組織の文化として定着させる必要があります。
茨城のある製造業では、すべての採用稟議に「経営戦略との関連性」を記載することを義務化しました。「この採用は、中期経営計画のどの目標の達成に貢献するか」を明記しなければ、採用が承認されない仕組みです。最初は面倒がられましたが、1年後には「採用の意図が明確になり、入社後のミスマッチが減った」「経営者が採用への投資を理解してくれるようになった」という効果が現れています。
北関東の企業が、採用を単なる「人集め」から「戦略的な人材投資」に転換すること。そのためには、人事が経営戦略を深く理解し、経営の言葉で採用の意義を語れるようになる必要があります。それは簡単な道のりではありませんが、企業の将来を見据えた採用を実現するための確実な方法だと、私は考えています。
関連記事
採用・選考群馬の中小企業が「採用マーケティング」を始める方法
求人を出しても応募が来ない——群馬の中小企業の経営者から、最も多く聞く悩みの一つです。ハローワークに求人を出し、求人サイトに掲載し、それでも反応がない。もっと給与を上げないと人が来ないのか大手に勝てるわけがない——そうした諦めにも似た声が聞こえてきます。
採用・選考北関東の企業が「内定辞退」を減らすための採用プロセス改善
内定を出しても辞退される——北関東の中小企業で、この悩みは深刻さを増しています。採用活動に時間と費用をかけ、選考を経て、ようやく内定を出したのに、辞退の連絡が届く。その落胆は大きく、再び採用活動をやり直さなければならない負担も重い。
採用・選考北関東の企業が「採用広報」をゼロから立ち上げる方法
採用広報をやった方がいいのはわかるが、何から始めればいいのかわからない——北関東の中小企業の人事担当者から、こうした声を聞くことが増えています。大手企業が採用ブランディングに力を入れ、SNSや動画で自社の魅力を発信している。それを見てうちも何かしなければと感じるものの、具体的な一歩が踏み出せない。
採用・選考北関東の企業が「採用候補者体験(CX)」を向上させる方法
面接の結果連絡が2週間以上来なかった応募したのに返信がなかった面接官が履歴書を事前に読んでいなかった——これらは、北関東の企業の採用選考を受けた候補者から実際に聞いた声です。採用候補者体験(Candidate Experience、以下CX)という概念は、まだ北関東の中小企業には浸透していません。しかし、C