
北関東の製造業が外国人技能実習生との共生を実現する方法
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北関東の製造業が外国人技能実習生との共生を実現する方法
群馬県大泉町は、人口の約2割が外国人住民で、「日本のブラジル」とも呼ばれる町です。この町に限らず、北関東の製造業の現場には、多くの外国人が働いています。技能実習生、特定技能の在留資格を持つ人、永住者として定着した方——その形態はさまざまですが、北関東の製造業が外国人材なしでは成り立たないという現実は、すでに動かしがたいものになっています。
しかし、「受け入れている」ことと「共生できている」ことは、まったく別の話です。
私がこの10年間で北関東の製造業を80社以上支援してきた中で、外国人材の受け入れに関して見てきた光景はさまざまです。外国人材が活き活きと働き、日本人社員と良好な関係を築いている企業もあれば、言葉の壁、文化の違い、労働条件を巡るトラブルに悩まされている企業もある。その違いは何か。それは、「共生」を経営戦略として設計しているかどうかの違いです。
「安い労働力」という認識をまず捨てる
外国人技能実習制度は、本来「技能の移転」を目的とした制度です。しかし現実には、多くの企業が「人手不足を補うための安価な労働力」として実習生を受け入れてきました。この認識が変わらない限り、真の共生は実現しません。
コストの計算を正しく行う。
「外国人実習生は安い」という認識は、実は正確ではありません。実習生の受け入れにかかる総コストを計算してみましょう。
監理団体への管理費(月額3〜5万円/人)、渡航費用の負担、住居の確保と家賃補助、日本語教育のコスト、社内の通訳・翻訳にかかる工数、行政手続きの事務コスト、OJTにかかる時間——これらをすべて含めると、実習生一人あたりの実質コストは、日本人のパートタイム従業員と大きく変わらないケースも多い。
それでも外国人材を受け入れる意義は、「数の確保」にあります。日本人の応募がない仕事を担ってくれる人材がいなければ、事業そのものが成り立たない。だからこそ、外国人材を「安い労働力」ではなく、「事業を支える貴重な戦力」として正しく位置づける必要があります。
2024年に制度が変わった。
技能実習制度は2024年に「育成就労制度」へと移行する方針が決まりました。この制度変更は、外国人材の権利保護を強化し、転籍(職場の変更)を一定条件で認めるものです。これにより、外国人材にとって「より良い職場を選べる」時代が来ます。
この制度変更は、受け入れ企業にとっても大きな転換点です。「来てもらった以上、3年間はうちで働いてもらえる」という前提が崩れる可能性がある。つまり、外国人材にも「選ばれる企業」であり続けなければ、人材が流出してしまうのです。
「言葉の壁」を組織的に乗り越える
外国人材との共生において、最も基本的かつ重要な課題が「言葉の壁」です。
日本語教育を「経営投資」として行う。
多くの企業が実習生の日本語教育を監理団体任せにしていますが、これでは不十分です。現場で使う専門用語、安全に関する指示語、品質基準の理解——業務に必要な日本語は、企業が主体的に教育する必要があります。
栃木のある自動車部品メーカーでは、週に2回、就業時間内に1時間の日本語教室を実施しています。講師は地域のボランティア日本語教師。教材は、自社の業務マニュアルから抜粋した「現場で使う日本語」のテキスト。「ネジを締める」「寸法を測る」「不良品を報告する」——こうした実務に直結する日本語を教えることで、現場でのコミュニケーションが大幅に改善しました。
この日本語教育にかかるコストは、月額約5万円(講師謝金と教材費)。一方、言葉の壁に起因する作業ミスや安全上のインシデントが減ったことによるコスト削減効果は、その数倍に達しています。
「多言語化」で情報を届ける。
日本語教育と並行して、職場の重要な情報を多言語で提供することも必要です。
- 安全標識・注意書き:日本語、ベトナム語、インドネシア語、中国語等の併記
- 作業手順書:写真・イラストを多用し、多言語の注釈を付ける
- 就業規則・労働条件:母国語での説明資料を用意する
- 緊急時の連絡先・対応マニュアル:母国語で記載
群馬のある食品工場では、全ての安全標識を4言語(日本語・ベトナム語・インドネシア語・英語)で掲示し、作業手順書も同様に多言語化しました。翻訳にかかった費用は約30万円でしたが、外国人スタッフの作業理解度が向上し、製造ラインでのミスが目に見えて減少しました。
「やさしい日本語」の活用。
すべてを多言語化するのは現実的に難しい場合、「やさしい日本語」を使うことも有効です。長い文を短く分ける、敬語を減らして直接的に表現する、漢字にふりがなをつける——こうした工夫で、日本語能力がまだ十分でない外国人材にも情報が伝わりやすくなります。
「文化の違い」を理解し、受け入れる
言葉の壁の次に大きいのが、文化の違いです。この違いを「問題」と捉えるのではなく、「理解し、受け入れる」姿勢が共生の基盤です。
宗教・食文化への配慮。
インドネシアからの実習生はイスラム教徒が多く、1日5回の礼拝の時間や、ハラール食への配慮が必要です。ベトナムからの実習生は旧正月(テト)を非常に大切にしており、この時期の帰国希望に対応することが重要です。
「そこまで配慮する必要があるのか」と思われるかもしれませんが、こうした配慮は「特別扱い」ではなく、「その人が力を発揮するための環境整備」です。日本人社員に対して通院のための休暇を認めるのと同じように、宗教的な必要性に対応することは、合理的な人事管理の一部です。
茨城のある農業法人では、インドネシア人実習生のために、工場内に小さな礼拝スペースを設置しました。畳2畳分のスペースにマットを敷いただけの簡素なものですが、実習生からは「自分たちの信仰を尊重してくれている」と非常に感謝されたそうです。このスペースの設置コストはほぼゼロですが、効果は大きい。
「報連相」の文化ギャップ。
日本の職場文化における「報連相」(報告・連絡・相談)は、外国人にとって理解しにくい概念のひとつです。多くの国では、問題が起きたら自分で解決するのが「できる人」であり、上司にいちいち報告するのは「能力がない」と見なされることもあります。
この文化ギャップを放置すると、「外国人は報告しない」「ミスを隠す」という誤解が生じ、信頼関係が損なわれます。報連相の「なぜ必要なのか」を丁寧に説明し、報告した人を褒める文化を作ることが重要です。
日本人社員の「受け入れ意識」を育てる
外国人材との共生は、外国人側だけの問題ではありません。受け入れる日本人社員の意識を育てることが、同じくらい重要です。
「異文化理解研修」の実施。
外国人実習生を受け入れる前に、日本人社員を対象とした「異文化理解研修」を実施します。内容は、受け入れ国の文化・習慣・価値観の紹介、コミュニケーションの注意点、やさしい日本語の使い方など。
大切なのは、「外国人のために我慢する」のではなく、「異なる文化を持つ人と一緒に働くことで、自分たちの視野が広がる」というポジティブなメッセージを伝えること。
栃木のある金属加工メーカーでは、年に一度「国際交流デー」を設けています。外国人スタッフが自国の料理を作り、日本人社員が日本の文化を紹介する。このイベントをきっかけに、普段は仕事の話しかしない日本人社員とベトナム人実習生が、休憩時間にも談笑するようになりました。
「バディ制度」の導入。
外国人実習生一人ひとりに、日本人社員の「バディ」(相棒)をつける制度です。バディは、業務上の指導だけでなく、生活面の相談にも乗る。「休日にどこに行けばいいか」「病院はどこがいいか」「日本の生活で困ったこと」——こうした日常の小さな困りごとに寄り添うことで、実習生の安心感が大きく高まります。
バディになった日本人社員の側にも変化が生まれます。「外国人と話すのは苦手だったが、実際に話してみると面白い」「彼らの仕事に対する真剣さに刺激を受けた」——異文化との接触が、日本人社員自身の成長につながるのです。
「キャリアパス」を示す——特定技能への移行支援
技能実習の最長期間(3〜5年)が終わった後、実習生はどうなるのか。帰国するのか、特定技能に移行して日本で働き続けるのか。この「先のキャリア」を一緒に考えることが、実習期間中のモチベーションにも大きく影響します。
特定技能への移行を支援する。
優秀な実習生に対して、特定技能への在留資格変更を積極的に支援することは、企業にとっても合理的な判断です。3年間かけて育てた人材をそのまま帰国させてしまうのは、投資の回収ができないということ。特定技能に移行すれば、最長10年間(特定技能2号の場合は無期限)日本で働くことができます。
茨城のある食品メーカーでは、技能実習3年目の実習生全員に対して、特定技能への移行希望を聞き取り、希望者には日本語試験と技能試験の対策を会社として支援しています。過去3年間で15名が特定技能に移行し、うち8名が5年以上継続勤務しています。彼らは今や製造ラインの中核を担う存在です。
「昇格・昇給」の仕組みに外国人材を含める。
外国人材だからといって、昇格や昇給の対象外にしてはいけません。スキルの向上に応じて給与が上がる、リーダー的な役割を任せる——こうした「成長と報酬の連動」は、国籍を問わず、人のモチベーションの基盤です。
群馬のある自動車部品メーカーでは、特定技能で5年間働いたベトナム人社員を「ラインリーダー」に昇格させました。日本人の部下を持つ初めての外国人リーダー。最初は戸惑いもありましたが、日本語力と技術力を兼ね備えた彼の存在は、日本人社員からも信頼を得ています。
生活支援——「職場の外」も組織の責任
外国人材との共生は、職場の中だけで完結しません。住居、医療、金融、行政手続き——生活面の支援も企業の重要な役割です。
住環境の整備。
実習生の住居を「とりあえず安いアパート」に入れるだけでは不十分です。生活に必要な家電・家具の提供、ゴミ出しルールの説明、近隣住民へのあいさつ——生活の基盤を整えることが、安心して働ける環境の前提条件です。
医療アクセスの支援。
外国人にとって、日本の医療機関は言葉の壁が高い場所です。多言語対応の医療機関の情報提供、通訳の手配、健康保険の使い方の説明——こうした支援が、健康上の問題を早期に発見し、対処するために重要です。
地域コミュニティとの橋渡し。
外国人材が地域に孤立しないよう、地域の国際交流協会やボランティア団体との接点を作ることも大切です。日本語教室、文化交流イベント、スポーツ大会——こうした場に参加することで、職場以外のつながりが生まれ、地域社会の一員としての帰属意識が育ちます。
「共生」は経営戦略である
外国人材との共生を「人権問題」や「社会貢献」の文脈だけで語ることは、重要ではあるものの不十分です。共生は、経営戦略そのものです。
外国人材が安心して働き、スキルを向上させ、長期間定着してくれることは、事業の安定と成長に直結します。逆に、外国人材を「使い捨て」にする企業は、制度変更に伴う人材流出リスクを抱え、地域社会からの信頼も失います。
北関東の製造業は、外国人材と共に歩む未来を選択するしかありません。その「共に歩む」の質を高めることが、企業の競争力そのものになる。言葉の壁を乗り越え、文化の違いを理解し、一人ひとりのキャリアに向き合う。この地道な取り組みが、北関東の製造業の持続可能性を支えるのです。
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