
北関東の企業が「人事と現場の壁」を壊す方法
北関東の企業が「人事と現場の壁」を壊す方法
「人事がまた何か言ってきた」「現場のことをわかっていないのに、制度ばかり押しつけてくる」——北関東の中小企業で、現場の管理職や社員からこうした声が上がっているケースは少なくありません。一方、人事担当者の側からも「現場が協力してくれない」「制度を運用してくれない」「面談をやってくださいと言ってもやってくれない」という声が聞こえます。
人事と現場の間に「壁」がある。この状態は、組織にとって大きな損失です。
私は、人事と現場の壁を壊すことが、人事機能を強化するうえで最も重要なテーマの一つだと考えています。どれほど優れた人事制度を設計しても、現場で正しく運用されなければ効果は出ません。どれほど良い研修を企画しても、現場の理解と協力がなければ成果は定着しません。人事の仕事は、現場との協働なしには成り立たないのです。
今回は、北関東の企業が人事と現場の壁を壊し、協力関係を構築するための方法を考えます。
なぜ壁ができるのか
人事と現場の間に壁ができる原因を整理します。
原因1:互いの仕事を理解していない。
人事は、現場の日常業務の大変さやプレッシャーを理解していないことがあります。逆に、現場は、人事がどのような業務を行い、どのような課題に取り組んでいるかを知らないことが多い。互いの仕事への理解が不足していることが、不信感の根底にあります。
原因2:人事が「管理者」として認識されている。
人事が、ルールの番人、制度の管理者、書類の催促者——こうした役割として現場に認識されていると、「人事=面倒なことを言ってくる部署」というイメージが固定化します。
原因3:現場のニーズを聞かずに施策を実施している。
人事が、現場のニーズを十分に聞かないまま、研修や制度変更を実施している場合があります。「こういう研修が必要だろう」という人事の判断が、現場の実感とずれている。現場が求めているのは別のことなのに、人事は自分たちの判断で施策を進めてしまう。
原因4:コミュニケーションの頻度が低い。
人事と現場の接点が、評価や採用の時期に限られている。日常的なコミュニケーションがなければ、互いの状況を理解することは難しい。
原因5:「本社」と「現場」の距離感。
北関東の中小企業では、本社と工場や営業拠点が離れている場合があります。物理的な距離が、心理的な距離感にもつながります。人事が本社にいて、現場は別の場所にいる——この距離感が、壁を助長しています。
太田市のある自動車部品メーカー(従業員約140名)では、人事部門と製造現場の関係が長年緊張していました。「人事が新しい評価シートを導入するたびに、現場からは『こんな書類を書く暇があったら仕事をさせてくれ』という反発があった。人事としては良かれと思って制度を設計するのだが、現場にとっては負担でしかなかった」と人事担当者は振り返ります。
壁を壊すための5つのアプローチ
人事と現場の壁を壊すために、以下の5つのアプローチを提案します。
アプローチ1:人事が現場に出向く。
人事担当者が、デスクから離れて現場に足を運ぶことが、壁を壊す最も基本的な行動です。工場や営業現場に顔を出し、社員と雑談をし、現場の空気を感じる。「何か困っていることはありませんか」ではなく、世間話でも構いません。顔が見える関係をつくることが第一歩です。
定期的に現場を訪問する「ウォークアラウンド」の習慣をつくることを推奨します。週に1回でも、現場に足を運ぶ時間を確保する。最初は「人事が何をしに来たんだ」と警戒されるかもしれませんが、継続することで「人事の○○さんは、よく現場に来てくれる人だ」という認識に変わります。
アプローチ2:現場のニーズを起点に施策を設計する。
人事施策を企画する際に、まず現場の声を聞くプロセスを設ける。管理職にヒアリングする、現場の社員にアンケートを取る、現場の会議に参加させてもらう——現場の実態と課題を理解した上で、施策を設計する。
現場の声を聞くときは、「何をしてほしいか」だけでなく、「何に困っているか」「何がうまくいっていないか」を聞くことが重要です。課題の根本原因を理解することで、本当に必要な施策が見えてきます。
アプローチ3:人事の役割を「管理」から「支援」に転換する。
人事の自己認識を、「管理者」から「支援者」に転換します。「制度を守らせる」のではなく、「制度を通じて現場の成果を上げる」という姿勢。「書類を提出させる」のではなく、「現場が使いやすい仕組みを提供する」という姿勢。
この転換は、人事の日常的なコミュニケーションに現れます。「これをやってください」ではなく、「これをやることで、皆さんの部門にこのようなメリットがあります」という伝え方。催促するのではなく、価値を伝える。
アプローチ4:管理職を「人事のパートナー」にする。
人事と現場の橋渡し役として、最も重要なのは管理職です。管理職が人事施策の意図を理解し、自部門での運用を主導してくれれば、人事と現場の壁は大幅に薄くなります。
管理職を人事のパートナーにするためには、管理職に人事施策の「背景と目的」を丁寧に説明する。管理職の意見を施策の設計に反映する。管理職が運用で困ったときに、人事がすぐにサポートする。管理職の人事面での取り組みを、経営者が評価する。
アプローチ5:小さな成功体験を積み重ねる。
人事と現場の協働で良い結果が出た事例を、意識的に積み重ね、共有する。「人事が提案した研修で、現場のスキルが向上した」「現場の意見を反映して制度を改善したら、社員の満足度が上がった」——こうした成功体験が、「人事と協力すると良いことがある」という認識を生みます。
宇都宮市のある建設会社(従業員約90名)では、人事担当者が月に2回、各現場を訪問する「現場巡回」を始めました。「最初は現場の職長から『何しに来たんだ』と言われたが、半年続けたら、職長の方から『ちょっと相談があるんだけど』と声をかけてくるようになった。現場の人間関係のトラブルや、若手の教育の悩みを、人事に相談してくれるようになった。壁を壊すのに必要だったのは、仕組みではなく、足を運ぶことだった」と人事担当者は話します。
人事が現場から信頼される条件
人事が現場から信頼されるためには、以下の条件を満たす必要があります。
条件1:事業を理解していること。
自社の事業内容、業界の動向、競合の状況、各部門の業務内容——これらを理解した上で人事施策を提案できる人事担当者は、現場から信頼されます。「うちの業界のことを知らないのに、制度だけ押しつけてくる」という不信感は、事業理解の不足から生まれます。
条件2:現場の忙しさを理解していること。
人事施策が現場の業務負荷に与える影響を理解し、配慮する。「評価シートの記入に2時間かかる」ことが、繁忙期の現場にとってどれほどの負担かを想像できる人事担当者は、現場に寄り添った提案ができます。
条件3:約束を守ること。
「来週までに回答します」と言ったら、来週までに回答する。小さな約束を一つひとつ守ることが、信頼の基盤になります。
条件4:結果を出すこと。
最終的に、人事の価値は「結果」で示す必要があります。人事施策によって、採用が改善した、離職率が下がった、社員のスキルが向上した——こうした結果を数字で示すことが、現場からの信頼を強固にします。
壁を壊した後に目指すべき「人事と現場の理想の関係」
壁を壊した先に、人事と現場はどのような関係を築くべきか。理想の姿を示します。
理想1:現場の課題を一緒に解決するパートナーの関係。
現場で人に関する課題が発生したとき、「人事に相談しよう」と自然に思ってもらえる関係。人事が現場の課題を理解し、一緒に解決策を考え、実行を支援する。
理想2:経営と現場をつなぐ「通訳者」の関係。
経営者の方針を現場にわかりやすく伝え、現場の声を経営者に届ける。人事は、経営と現場の間に立つ「通訳者」として、双方の理解を促進する。
理想3:人材の成長を共に喜ぶ関係。
社員の成長を、人事と現場が共に喜べる関係。「あの社員、成長したよね」「研修の効果が出ているね」——こうした会話が日常的に交わされる状態が理想です。
高崎市のある電子部品メーカー(従業員約90名)の人事担当者は、「壁がなくなったのは、現場の管理職が『人事はうちの味方だ』と思ってくれるようになったから。味方だと思えば、相談もするし、協力もする。その関係をつくるのに3年かかったが、今では人事なしでは回らないと言ってもらえるまでになった」と話します。
人事が現場に提供できる「武器」
壁を壊すだけでなく、人事が現場に具体的な価値を提供することが重要です。現場の管理職が「人事がいて助かる」と感じる「武器」を提供します。
武器1:面談のフレームワーク。
部下との面談で何を話せばよいかわからない管理職に、面談の進め方のガイドラインを提供する。質問例、時間配分の目安、面談後のフォローの方法——こうしたツールがあると、管理職は安心して面談に臨めます。
武器2:人材データの共有。
各部門の人材構成、スキル分布、離職率の推移——管理職がマネジメントに活用できるデータを定期的に提供する。「あなたの部門の平均勤続年数は、社内平均より短い。その原因を一緒に考えましょう」——データに基づいた対話が、人事と現場の協力を促進します。
武器3:問題解決の支援。
現場でハラスメントの問題、メンタルヘルスの問題、人間関係のトラブルが発生した際に、人事が専門的な知見を持って支援する。管理職一人では対処しきれない問題に対して、人事が「後ろ盾」として機能する。
人事と現場の壁は、一朝一夕には壊れません。しかし、日々の地道な取り組みの積み重ねが、確実に壁を薄くしていきます。北関東の中小企業の人事担当者が、現場との信頼関係を築き、一緒に組織を良くしていく——そのような協力関係が、企業の成長を支える力になると信じています。
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