
北関東の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法
目次
北関東の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法
「副業を認めたら、優秀な社員が他社に取られてしまうのではないか」——北関東の中小企業の経営者が副業制度について抱く、最も典型的な懸念です。この気持ちはよくわかります。少ない人材を大切に抱え、離職を防ぐことに必死な中小企業にとって、「社員が他で働く」ことを許容するのは心理的なハードルが高い。
しかし、現実はむしろ逆の方向に動いています。副業を禁止している企業は、人材の確保で不利になりつつあるのです。特に、30代以下の求職者にとって、副業を認めているかどうかは就職先を選ぶ際の重要な判断材料になっています。「この会社は副業OK」と書いてある求人票のほうが、応募数が多いというデータは、採用担当者なら実感しているのではないでしょうか。
副業・兼業制度は、「社員を外に逃がす仕組み」ではありません。「社員が外で得た知見やスキル、人脈を自社に還元してもらう仕組み」です。適切に設計・運用すれば、自社だけでは得られない人材の成長と、組織の活性化を実現できます。今回は、北関東の企業が副業・兼業制度を導入し、人材の幅を広げるための方法を考えます。
副業・兼業を取り巻く環境の変化
まず、副業・兼業を取り巻く社会的な環境を確認しましょう。
法的な後押し。
厚生労働省は、モデル就業規則において副業・兼業を原則容認する方向に改定しています。以前は「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」が規定されていましたが、現在は「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と変更されています。
労働者のニーズ。
スキルアップ、収入の補填、新しいチャレンジ——副業を希望する理由は多様です。特に北関東の中小企業では、「自社の中だけでは得られない経験を積みたい」「将来のキャリアの幅を広げたい」という成長志向が背景にあることが多い。
企業側のメリットの認識拡大。
副業を通じて社員が獲得した新しいスキルや人脈が、自社の事業にプラスに還元されるケースが増えています。「副業は損」ではなく「副業は投資」という認識が広がりつつあります。
北関東の企業が副業制度を導入するメリット
メリット1:採用競争力の強化。
「副業OK」は、採用市場での大きなアドバンテージです。東京の企業と人材を奪い合う北関東の中小企業にとって、「給与は東京に及ばなくても、副業で収入を補填できる」というメッセージは有効です。
メリット2:社員のスキル・視野の拡大。
自社の業務だけでは経験できない分野のスキルを、副業を通じて習得してもらえます。たとえば、製造業の社員がIT企業で副業することで、デジタルスキルを身につけ、自社のDX推進に貢献する——こうしたシナジーが期待できます。
メリット3:人脈とネットワークの拡大。
副業先で構築した人脈が、自社の事業にも活かされることがあります。新規取引先の紹介、業界の最新情報の獲得、共同プロジェクトの創出——社員のネットワークが広がることは、中小企業にとって大きな資産です。
メリット4:イノベーションの促進。
異なる業界や分野での経験は、固定観念を打破し、新しい発想を生みます。「副業先でこんなやり方を見た。うちでも応用できないか」——こうした「越境学習」の効果は、自社内の研修だけでは得られないものです。
メリット5:社員の定着。
「副業も認めてくれる会社」に対する社員の満足度と帰属意識は高い。「転職しなくても、この会社にいながら新しいことに挑戦できる」という感覚は、定着率の向上につながります。
制度設計の「5つのポイント」
副業・兼業制度を導入する際の、制度設計のポイントを整理します。
ポイント1:申告制と許可制のどちらにするか。
「事前申告制」(副業を始める際に会社に届け出る)と「事前許可制」(会社の許可を得てから副業を始める)の2つの方式があります。
中小企業の場合、「事前許可制」のほうが運用しやすいでしょう。副業の内容が自社と競合しないか、本業に支障が出ないかを事前に確認できるからです。ただし、許可の基準を明確にし、不合理な理由で拒否しないことが重要です。
ポイント2:副業の「NG条件」を明確にする。
以下のような条件を、就業規則に明記します。
- 競合企業での副業は禁止
- 本業の労働時間中の副業は禁止
- 自社の機密情報を副業先に持ち出すことは禁止
- 副業による疲労で本業のパフォーマンスが低下しないこと
- 副業先の業務が反社会的でないこと
ポイント3:労働時間管理のルール。
副業を行う場合、本業と副業の労働時間を合算して管理する必要があります(労働基準法上の規定)。長時間労働による健康リスクを防ぐために、「本業と副業を合わせた総労働時間」の上限を設定し、社員に自己管理を求めます。
ポイント4:情報管理のルール。
自社の機密情報が副業先に漏れることを防ぐためのルールを整備します。機密情報の定義、副業先での自社情報の取り扱いルール、違反時の対応などを明文化します。
ポイント5:定期的な状況確認。
副業を開始した社員に対して、半年に1回程度、「副業の状況確認面談」を実施します。本業への影響、健康状態、副業で得た学びの共有——こうした確認を通じて、問題の早期発見と、副業の効果の把握を行います。
高崎市のあるIT企業では、副業制度を「副業チャレンジ制度」と名付けて導入しました。申請時に「副業を通じて何を学びたいか」「学んだことをどう本業に活かすか」を記載させ、半年ごとに「副業レポート」を提出してもらいます。このレポートが社内で共有されることで、「あの人は副業でこんなスキルを身につけたのか」と他の社員の刺激にもなっています。
「副業人材」を受け入れる側としての可能性
副業制度は、「自社の社員が副業する」だけでなく、「他社の人材を副業として受け入れる」可能性も開きます。
都市部の専門人材を副業で活用する。
東京の大企業に勤める専門人材(マーケティング、IT、財務、人事など)を、副業・兼業の形で自社のプロジェクトに参画してもらう。フルタイムで雇用するほどの業務量はないが、専門知識が必要な場面——こうしたニーズに対して、副業人材の活用は最適な解です。
茨城のある製造業では、東京のIT企業に勤めるエンジニアを副業で受け入れ、自社の生産管理システムの改善プロジェクトに参画してもらいました。月に2回のオンラインミーティングと、月1回の現地訪問で、半年間のプロジェクトを遂行。フルタイムのIT人材を採用するよりもはるかに低コストで、専門的な知見を得ることができました。
副業マッチングサービスの活用。
副業人材と企業をマッチングするサービスが増えています。こうしたサービスを活用することで、自社の課題に合った専門人材を効率的に見つけることができます。
副業制度の効果を経営数字で測定する
副業制度の導入効果を、数字で把握します。
測定指標1:採用応募数の変化。
副業制度の導入前後で、求人への応募数がどう変化したか。「副業OK」を求人票に記載した場合の効果を測定します。
測定指標2:離職率の変化。
副業を認めたことで、「この会社にいながら新しいことにチャレンジできる」と感じた社員が定着しているかを確認します。
測定指標3:副業経験者のスキル向上。
副業を行っている社員のスキル評価や業績を、副業をしていない社員と比較します。
測定指標4:副業から自社への還元実績。
副業を通じて獲得したスキルや人脈が、自社の事業にどう貢献したかを定性的・定量的に把握します。
群馬のある部品メーカーでは、副業制度の導入後2年で、採用応募数が30%増加。副業制度を利用している社員5名のうち、3名が副業で得たスキルを社内プロジェクトに活用しています。ある社員はWebマーケティングの副業で得た知見を活かし、自社の採用サイトをリニューアルして応募数の向上に貢献しました。
副業制度導入の「よくある不安」への対応
経営者や管理職が副業制度に対して抱く不安と、その対応策を整理します。
不安1:「本業のパフォーマンスが落ちるのではないか」。
対応:副業を行う社員の本業のパフォーマンスを、導入前後で定量的に比較します。多くの企業の実例では、副業を行っている社員の本業パフォーマンスは、副業をしていない社員と同等かそれ以上です。むしろ、副業で得た刺激がモチベーションを高め、本業にも好影響を与えるケースが報告されています。
それでもパフォーマンス低下が見られた場合は、個別に面談を行い、副業の量を調整します。ルールとして「本業のパフォーマンス評価がB以下の場合、副業の一時停止を検討する」といった条件を設けておくことも有効です。
不安2:「情報漏洩のリスクがあるのではないか」。
対応:副業申請時に「秘密保持に関する誓約書」を提出してもらい、自社の機密情報の範囲と取り扱いルールを明確にします。競合企業での副業を禁止するルールは、ほとんどの企業で設定されています。
不安3:「副業が本業になって辞められるのではないか」。
対応:この不安は理解できますが、副業を禁止したからといって転職を防げるわけではありません。むしろ、副業を認めることで「この会社にいながら新しいことにチャレンジできる」という満足感が生まれ、転職の動機が減少するケースのほうが多い。
栃木のある食品メーカーでは、副業制度を導入して3年になりますが、副業を理由とした退職はゼロです。「副業で他の世界を見たからこそ、うちの会社の良さがわかった」という社員の声もあります。
北関東ならではの副業の可能性
北関東の地域特性を活かした副業のあり方も考えられます。
農業との兼業。
北関東は農業が盛んな地域です。農繁期の短期的な農業手伝いを副業として認めることで、地域の農業人手不足にも貢献できます。社員にとっても、農作業はリフレッシュや健康増進につながります。
地域の中小企業間での人材シェア。
北関東の中小企業同士が連携し、「繁閑の差を利用した人材の相互融通」を副業・兼業の形で実現することも考えられます。A社の閑散期にB社で副業する、という形は、双方の企業にメリットがあります。
副業制度は「信頼の証」
副業制度の導入は、「私たちはあなたを信頼しています」という経営者から社員へのメッセージです。「この会社の外でも活躍してほしい。そして、その経験をこの会社にも還元してほしい」——こうした信頼に基づく関係性は、管理と拘束に基づく関係性よりも、はるかに強い帰属意識を生みます。
北関東の中小企業が、副業・兼業制度を通じて社員の成長機会を広げ、外部の知見を自社に取り込み、採用競争力を高めること。それは、「閉じた組織」から「開かれた組織」への転換であり、変化の激しい時代を生き抜くための経営戦略です。社員を信頼し、社員の可能性を広げること。その姿勢が、結果として自社の可能性をも広げていくと、私は考えています。
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